なるたけ遠くに逃避計画

THE ULTIMATE ESCAPE PLAN

ビートルズの本を読んだ四

 

おはようございます。

 

7時起き、早起き成功。イチゴジャムトースト。

 

今日はビートルズの本を読んだ。イアン・イングリス『ビートルズの研究』

 

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まだビートルズかい、と思われる方もいるかもしれない。なにせ私もそう思っている。この本は「まだビートルズかい」に決着をつけるため読んだのだ。私は高校の同級生にビートルズを教えてもらって以来、主に「音」を聴いてきただけであり、彼らを取り巻く環境や歴史については大まかにしか知らないままだった。

 

ビートルズは世界にとって偉大だ。そして私にとっても偉大だ。とてつもなく良いバンドだ。偉大であるからこそ、乳離れしなければいけない。蝸牛が化石になってしまう。音楽への飽くなき探求において価値観の凝固は障害になる。

 

ということで、ビートルズの知識を脳内のタンスに仕舞うことにした。もちろん「音」に関してはかなり聴いてきたので大丈夫。あとは専門的な分析を読んでボヤボヤした輪郭を埋めようと考えた。こうして手に取ったのがこの本だ。

 

ちなみに初版発行は1999年と25年前にも遡るが、無論ビートルズは既に解散している上ほとんどの文章が当時の情勢を俯瞰して書かれたものであるため、2024年にしてこの本で「ビートルズを知る」ことに問題は無いと思われる。

 

で、どうだったかというと、

予想以上に面白かった。

 

第1章~第3章ではポピュラー音楽そのものや「マージービート」(筆者はジャンルとしての地位に納得していないらしく鍵括弧付きで表記している)、そしてビートルズ登場の背景について語る。英語特有の言い回しが目立つがそこまで読みにくくはない。

 

驚いたのは「レノン=マッカートニーと初期のブリティッシュ・インベンション」と題された第4章。ブリティッシュ・インベンションにおいてビートルズが如何に尖り異彩を放っていたかが論じられているが、なんといってもデータが凄い!

 

データが出た出た データが出た ヨイヨイ

 

失礼。この章では作曲法の徹底的な比較分析によってビートルズの革新性が非常に明快な手立てで証明されている。比較対象はJaggar-RichardsThe Rolling Stones)、Dave Clark(The Dave Clark Five)、Ray DaviesThe Kinks)、そしてLennon-McCartney

それぞれの違いをヒットチャート、歌詞、メロディ、音域、音階、リズム、ハーモニー、楽曲形式に至るまで、多角的かつ事細かに表にまとめ分析しきっている。かなり読みごたえがあったので、ドライアイになりかけた。

 

続いての第5章ではビートルズ楽曲の歌詞にクローズアップしている。ありきたりなラヴソング(前期)から第三者目線で他者を語るスタイル(後期)への変遷とその必然性について前半でざっとまとめたのち、後半ではコーパス分析を用いてがっちり論を締める。うーん、分かりやすすぎる!!!

 

一枚のアルバムに焦点を合わせた第6章。「『ホワイトアルバム』はポストモダンの理念を表出している説」の検証である。リオタールやロラン・バルトなどガチガチの哲学者からの引用と共に不可解な作品構成を解き明かしていく。

まさに目から鱗だった。

《Helter Skelter》のRingoの叫び声を真面目に分析するところは特に。

 

たとえば、「ヘルター・スケルター」は終わる前に三度フェードアウトを繰り返し、リンゴが「指に豆ができてしまった」と叫んだ直後に終わりとなる。リンゴの発言は「この装置をあらわにし」、エンディングは強制されたものだということを読者に示している。すべてのテキストは人間に限界があるために終わる。しかし伝統的なテキストはエンディングを自然なものとして示すことによってこの事実を隠す。リンゴは歌/テキストに終わりがある本当の理由を暴露する。すなわち、しばらくすると指に豆ができてやめざるをえないからだ。(中略)ビートルズはスタジオのマイクをオンにしたまま、読者になぜ歌が本当に終わったかについて盗み聞きするよう促すことによって、「ヘルタースケルター」の終結を拒否する。

イアン・イングリス『ビートルズの研究』:村上直久/古谷隆(訳)(p212)

 

多くの人がRingoの叫び声をビートルズの魅力的なユーモア、遊び心としてのみ捉えていることだろう(というかそれが普通だ)。ここだけ引用すると単なる深読みにも見えるが、前後の流れの中だとごく自然な主張として受け取れた。超面白い視点。

 

第7章はビートルズが食らった検閲の歴史。政治と宗教と教育。「キリストより有名」発言で炎上(物理的にも)した話は有名だが、それ以外にもトンデモエピソードが山盛りだった。きゃりーぱみゅぱみゅ《PONPONPON》逆再生みたいなのをガチで信じてる人たちもいる。

 

第8章は見過ごされがちなビートルズの映画について。あっ、映画。。。そう、私はビートルズの映画を一本も観ていない。このままでは引き出しが閉められなさそうだと思った。

 

第9章は彼らが変えてしまったポピュラー音楽シーンの仕組み。ちょっと難しい。

 

第10章は「Anthology」プロジェクトについての批評。去年公開された「最後の新曲」《Now and Then》は地続きなんだろうし、「Johnの曲」が「ビートルズの曲」になったという点はAI技術が発達してもなお同じだった。MVについての考えも興味深い。

 

第11章は次世代が受け継いだ精神性。ビートルズが誇張した皮肉めいた英国風味は今やノスタルジックなものに変質し、BlurOasisなどのブリット・ポップ勢はそれを実直なアイデンティティの拠り所として継承しているという話。面白い。

 

 

良かったところは、べた褒めしていない点(特に8,10章)。もっとあるけど上に色々書いたしいいや。疲れた。

悪かったところは、全体の総括がない点と僅かな誤植くらい。

 

超面白かったけど、もう一冊くらいビートルズの批評を読んでみたいと思った。あと映画も観たい。脳内の引き出しはまだ閉まりそうにないみたい。

 

ビートルズ好きにはかなりおすすめの一冊。

 

今日はここいらで、おやすみなさい。