2026年6月9日、デスメタルのレジェンドを観ました。
到着 (17:48)
新宿。ホストの看板が張り巡らされた「さくら通り」を直進し、一際目立つエメラルドグリーンの建物に辿り着く。ここの地下二階が今日の会場、Holiday Shinjukuだ。壁際にはすでに、おどろおどろしいロゴをあしらった黒基調コーデの人々が列をなしている。開場時刻に先立って始まったVIP客の呼び出しは5分ほど(来る前から始まっていた?)。やがて一般チケットの案内が始まったが、U-24は別らしい。12番だったけどいいとこはとれなそう。交差点の角寄りから待機列をちらちら見やる形で待つこと15分。
特にアナウンスもなく18時を迎え、一般チケットの130番まで呼び終わったところでようやくU-24の1~10番。けっこうズレるんだなあ。VIP抜きに前で観たい人は一般チケじゃないと厳しそう。
5分経過。10番以降は番号範囲の指定がなくなったことに気づいて、やっと移動した。小さい入口を通ってスタッフにデジタルチケットを見せ、手書きウェルカムボードのすぐ右を下りていく。本人確認を終えたのちカウンターで600円を払うと、ドリンクチケットと紙チケットが渡された。デジタルなのに紙もらえるのうれしい。
入場してすぐ混み具合がわかるほどの狭さに驚く。たぶん7割は埋まっていた。フロアは段差で二分されており、下がってる手前のほうは2~3列埋まった後ろにモッシュ用の余白がある。段差上は三列ほど完全に埋まっている状態で、その2m後ろで物販をやっているという…。ミチミチだ!Incantationって本来こんなに小さい箱の距離感で観られるバンドじゃないのでは!?と興奮しながらドリンクバーへ。
周りを見渡すと、Arch Enemy、Testament、Pestilenceなど、OSDMに限らずさまざまなデス~スラッシュのバンドロゴが目に付く。逆にIncantationのマーチは少数派っぽい。なにせ前回の来日は19年前だもの。そんな長い歴史を生きてきたレジェンドゆえに、客の年齢層も少し高め。中年の男性が一番多かったのでは。若者は何気に多く、女性も2割以上、全体でみると日本人と外国人が同じくらいいた(声量の違いから錯覚しているかもしれない体感)。
さよならドリチケ。いつもは利便性を考えてミネラルウォーター(ペットボトル)をもらうところ、気分でジンジャーエールのプラカップを選び、そそくさと後方中央へ移動した。少なくともボーカルとドラムは見えそうでひと安心。ゆったり待つこと15分、客入れBGMのブラストビートが大きくなり暗転、拍手と歓声、左から右へ幕が開くとそこにはDefiledの面々が!今回は耳栓なしで挑む。これも気分だ。
Defiled (18:30~18:56)
疾走感のあるスラッシュ~メロディック・デスっぽいリフから始まった…ような気がする。私の記憶力はゴミなので、以降すべての文章は「そういう印象の残り方」として読んでもらえれば。閑話休題。デス寄りのパートではトレモロリフのみならず地鳴りツーバスも一体となって襲ってきて、かなり興奮した。アルバム音源に対して抱いていた味気無さをひっくり返すエネルギー!

Defiledの面々、肉眼ではちゃんと全員見えてました
とはいえ、全体的な音量は前座だからかやや控えめ。各楽器のバランスについてもドラム=ボーカル>>ベース≧ギターといった感じで、勢いは十分に感じられた一方、中低音域の音遣いがほとんど聴き取れなかったのは惜しい点(耳栓してたら聴こえたかも)。デスメタル初見のほざき①。ベースやキックの重低音は内臓に来ないレベルで、聴き疲れは心配しなくてよさそう。
新譜からの《Portal》では第一波ブラックにも通ずる直球ノリをこなす。Shinichiro Hamada (vo./gt.) のハードコア的な発声がピッタリ合っていてカッコいい。いわゆる2ステップのパートではモッシュを期待したが、特に何も起こらず終了。それ以前の反応(ヘドバンとか)をみても、もっと盛り上がっていいのになあ、とは思った。デスメタル初見のほざき②。
そのあとは予習楽曲が続いた。展開が多種多様だし、爆音でリフの音程も聴き取れないしで、全然思い出せない(《Off-Limits》と《Horror Beyond Horror》は絶対にやってた)。ただ楽しかったのは確か。ノリづらかった曲は竿隊の指板を見ながらリフの境目を捉えて、何度かあったグラインドコア的スライド奏法のときには、その代わりにブラストビートをモタつきなく叩き切る Keisuke Hamada (dr.) の安定感を信頼する。つねにスネアを力強く鳴らすデスメタル式のブラストは、ブラックメタルの軽やかに流れていくそれとは全くの別物。生で聴いてちゃんと再確認できたのも良かった。たぶんトリガーもないので凄い。
全体的に、ころころテンポチェンジするという点でIncantationと共通してはいるものの、異なるテンポを繋ぐ有機性のようなもの(グルーヴ感/ギタートーン/楽曲構造)はあまり感じられず、比較的デジタルな印象を受けた。リフの音遣いを抜きにすれば、OSDM…というよりNYDMって感じはそこまでない。VoivodやDoom辺りのプログレ入ったテクニカル・スラッシュに近そう。
〆の楽曲は《To See Behind the Wall》。メロイック突き上げを煽ったあとのグラインド的ブラスト、プロギーな5拍子キメ、高音リードソロとピロピロタッピングまで盛りだくさんの欲張りセット。この曲かは分からないけどウインドミル・ヘドバンも観れたことだし、なんだかとても満足した気分。
Shinichiro HamadaはMCで、98年に行われたIncantationのUSツアーに帯同した縁から、今こうしてオープニング・アクトを務められることが「光栄」だと語っていた。また演奏が終わってステージを去る前には「これだけ言わせて」「Next is …Incantation !!」とハイテンションな一声も。予測不可能なスリルと安心感を兼ね備えた、ベテランならではの素晴らしい舞台だったと思う。
Incantation (19:20~18:56)
※セトリはこちらを参考に。
暗転するや否や一気に沸き立つ会場。「Incantation」という語を文中に含んだホラー映画調(というよりサンプリング?)の男性ナレーションがノイズ混じりで流れ始める。間もなく左から右へと幕が開き、真っ赤な光とともに露わになったステージには…まだ誰もいない。まず、中央に鎮座するドラムセットが先ほどより高い位置に置かれていることに気づく。そこにはバンドロゴの書かれた布切れがかけられ、背後の垂れ幕ロゴも白いライトでチカチカ明滅している。転換時やDefiledのステージで感じられた暖かみは搔き消えた。どうやら魔界に迷い込んでしまったらしい。
2~30秒の焦らしを経て、ついにIncantationの四人――John McEntee (vo./gt.) 、Luke Shively (gt.)、Charlie Koryn (dr.) 、Chuck Sherwood (ba.) ――が現れた。彼らも我々もメロイックサインで挨拶し合う。竿隊がドラムセットの前に集まると、メンバー全員が乾杯のようにグータッチを交わした。ルーティンなのか、仲良さげ。
ナレーションの音声。女性の悲鳴が響き渡り、緊張感と期待が空気を満たしたその瞬間。デーダッ!ダッ!ダッ!1st『Onward to Golgotha』の表題曲、《Golgotha》のイントロが炸裂する。爆音のトレモロ+ブラスト、怪物的グロウル、明るく照らされたメンバーの身体から発せられるオーラ…。衝撃が一挙になだれ込んできた。ついでにバスドラムのロゴ布が無地ではなく日本国旗だったことも判明した。
キメに対して減速するタイム感は音源通りで、テンポが変化してもグルーヴは死なずにどろどろと流れていく。ユニゾンの低速パートではギターとベースがバランスよく溶け合い、音程も明瞭に聴き取れた。こうした音響の良さは先に書いておくべきだろう。ドラムが一番デカいのはDefiledと同様(音質も似ている)、忙しないパッセージにおいては竿隊が後景に退くことが多かったものの、随所に図太いモノフォニーの主張があり、Lukeはここぞというタイミングでピンチ・ハーモニクスとトレモロ・アーミング(を織り交ぜた暴れギターソロ)を放ってくる。当然、編曲の妙でもある。
続く《Concordat》でも聴こえの良さは顕著だった。ヘヴィな3拍子のユニゾン・リフに、Lukeの妖怪的なハーモニクスが息ピッタリで絡んでくる。ミクロなフレーズ単位で緩急をつけるCharlieのメタリック・ハードコア的なノリもそこに重なり、強打される金物で音像もシャリシャリしてきて…思わずstank faceを浮かべてしまった。また、イントロ後のブレイクは音源よりも長く、明確なコール・アンド・レスポンスではないにしろ、Johnが何か叫んで(グロウルのため聴き取れず)、こちらが声や手をあげるという、コミュニケーションのための余白となっていた。7曲目の《Vanquish in Vengeance》にも3拍子のスネアに合わせて手を挙げる煽りがあり、こういった着実な交流が生む親しみやすさも、彼らの音楽に説得力のようなものを与える重要因子の一つであったと思う。
唯一のオリジナルメンバーかつフロントマン、Johnが放つグロウルの迫力は凄まじかった。バンドサウンドに埋もれることなく、むしろその中心で非人間的な低音をどっしりと響かせ、一瞬にして空間を支配する。風貌も相まって崇高なオーラを纏っていた彼だが、本当に凄いのは、同時に親しみやすさをも兼ね備えていたことだ。先述した煽りはほとんどJohnによるものだし(あとはLukeがちょいちょい)、曲名を毎回シャウトしてくれる時点でだいぶ優しいし(聴き取れるかどうかはとにかく)、何度も口にしていた「Hell Yeah!!」はアメリカンな朗らかさというかなんというか。演奏中にも拘らずフロアの方へと身を乗り出し、観客とにこやかにメロイック・グータッチをかわす一場面もあった。まさかこんなに気さくだとは。

Incantationの面々
風貌とか佇まいの話でいえば、メンバー全員が金髪か白髪のロン毛(Chuckだけは顎ロン毛)。年長者のJohnとChuckには老魔術師のような落ち着きがあり、ひと回りふた周り若いであろうCharlieとLukeはよりアグレッシヴ。特にLukeは開始早々、天井の鉄パイプ?に引っかかるほど大きく髪を振り上げていて(普通に指板に被っちゃうからだと思う)存在感があった。対するChuckはベーシストらしく静かにアンサンブルを支えており、身振りよりもファンの風でそよぐ顎ヒゲのほうが印象に残っている。
本筋に戻ろう。3曲目は《Emaciated Holy Figure》、さらにテンポの遅い、ドゥームと言ってよいテンポのユニゾンリフで地獄の底へとずぶずぶ引き込まれる。アウトロはまたしても引き伸ばされ、フィードバック・ノイズ、シンバルをバシャバシャ、ギターのネックを天井の鉄パイプやシンバルにこすり付けるなど、いたずらっぽい様子が面白かった。次は《Iconoclasm of Catholicism》、2nd『Mortal Throne of Nazarene』収録曲が連続で繰り出される。スラミングっぽいリフを大振りで弾くLuke。私もヘドバンが止まらない。
そして《Ascend Into the Eternal》、ここで予習範囲外の曲がきた。…白状しよう。私はつい最近まで4th『Diabolical Conquest』以前の作品しか聴いたことがなく、しかも曲の区別が一切つかない状態だったのである。今回の来日をキッカケに理解を深めてみようと思い立ち、およそ一週間ほどの間、ライヴで頻繁に演奏される楽曲を中心に聴き込んだというわけだ。Defiledの例によって、予備知識のない楽曲の記憶は薄い。しょうがない。
会場がイイ感じに暖まると、観客の反応も変わってくる。私が今回初めてモッシュを観測したのは6曲目、《Shadows of the Ancient Empire》の前半にあるブラスト・パートにおいてだった。段差下のモッシュピットで自由自在に動き回る人影。いわゆるハードコアのニュースクール・モッシュとは違うふつうのモッシュ(?)で、おしくらまんじゅうの中には無邪気な笑顔もみえる。一度だけモッシュのエネルギーが漏れ出て縦にぐいっと押し出された以外、後方の我々は基本的に安全だった。これ以前の楽曲にも「モッシュが起きそうなパート」はあったのに、演奏開始からしばらく経ったタイミングで起きたのが自然体っぽくて良かった。個人的には、遅さじゃなくて速さに反応したのが興味深い。ちなみに9曲目の《Ethereal Misery》でも、速いパートでモッシュ漏れが2回あった。
猛攻のあとの《Carrion Prophecy》は癒し枠、バラードのような趣さえある音数の少ないドゥーム・リフを味わう。しっかりブラストもあるけど。そのほか予習範囲外の楽曲は、案外知らなくても簡単に乗れる。一番デカいドラム=リズム自体が反復的なので全然キャッチー。過激な形をしていても、根本的にはリフ・ミュージックなのだ。だから少しは覚えていることもある。例えば、《Fury's Manifesto》はスラッシーな2ビートが意外と新鮮だったり、《Anoint the Chosen》はMorbid Angel的な6拍子のキメが記憶に残ってたり。
個人的に好きな曲《The Ibex Moon》もやってくれて嬉しかった。からの《Impending Diabolical Conquest》。アツい!粘っこいドゥームと爆速ブラストをなめらかに繋げてシャッフルのブラストに着地したころには、なんだかチル?な気分で頭を振っている自分がいた。異常音響にも慣れて暴虐性がリラクゼーションに変質したのだろうか。不思議だ。そんな恍惚のなかで演奏は終わり、楽器を長々とかき回す彼ら。いやあ…人生初めてのデスメタルにしては贅沢すぎる、良いライヴだった。
祝祭ムードに包まれるなか、ひょいと人差し指を掲げるLuke。なんとまだ演奏してくれるらしい!さっきのはフェイクだったの!?どこまでも盛り上げ上手だ。ここで選ばれたのは《Blissful Bloodshower》、奇数拍子のブラストを中心に構成された短尺曲。なるほど、大団円で終わらせず焼け野原にして帰るつもりなのかな…と思いきや、最後の最後にしっかりともう一曲《Unholy Massacre》。1stで始まり1stに終わる。三つ首ユニゾンでドゥームの側面を堪能、三拍単位のフィルもビタビタにハマってて気持ち良かった。締めくくりには再びかき回し。Johnのショーマンシップは最後まで抜け目ない。またもや鉄パイプギター、さらには弦を観客にわちゃわちゃ触らせるというJames Hetfieldみたいなファンサまでしていた。本当にありがとう。ありがとう。👏👏👏
帰宅
耳鳴りは翌日の夕方に止んだ。
