なるたけ遠くに逃避計画

THE ULTIMATE ESCAPE PLAN

ケチャまつりに行ってきました!

 

芸能山城組が主催する、新宿三井ビルディングにてインドネシア民族音楽がガチ演奏される何とも珍しく貴重な夏祭り…その名もケチャまつり。これを観てきた。このイベントの存在を知ったのはつい昨日。開催期間は7/31~8/4までの5日間、つまりギリギリ最終日に滑り込む形となった。ラッキー、気づいて良かった。以前よりガムランやケチャ、山城祥二が唱えるハイパーソニック・エフェクト、また芸能山城組自体に興味があったので。充実したプログラムに加えて入場無料という文字を突きつけられたら、ヨダレ扇風機で向かわざるを得なかった。すべてが初体験、良い一日だった。

 

www.yamashirogumi.jp

 

 

13:48 - はじめての新宿

何気に新宿は初めてだった。そのせいか駅で(マップを見ていながらも)道に迷い、最初のプログラムに間に合うか怪しくなるまで時間を食ってしまったため、どこも寄ることなく会場に直行することにした。地下通路を出たら流石にアチい!建物の高さしか覚えていない。日焼け止め、メッシュ生地の半袖に6分丈ズボン、ハット、冷感タオル、氷ペットボトル、塩分チャージを装備。万全の熱中症対策をとっていたので、多少は余裕をもって歩けた。

 

14:11 - 会場到着

会場、新宿三井ビルディングの55HIROBAに着いた。経路にデカい看板ズドンとか近くの道路にのぼり旗を並べてるとかデカい音楽が鳴ってるとか「祭りだ祭りだ!」みたいなワイワイガヤガヤ感はなく、こぢんまりと落ち着いた雰囲気。青い法被を着た芸能山城組の方々がうろつき、中高年の方々がのんびりと日陰の椅子に腰かけていた。自分と同じくらいの若者はあまり見当たらず、少しアウェイに感じながらも、とりあえず無料配布の「ケチャまつりガイド」を手に取りうろうろ。まだショーが始まるまで20分くらいあるとはいえ、早いうちに鑑賞場所を確保しておくことにした。真ん中らへんは埋まっていたので、木陰かつ最前?なステージ上手側の階段1段目(画像右下)に座った。

 

1階(地上)から見下ろした会場の様子

 

そこからの景色は、こんな感じ。

 

私の視界


ホントは真ん中が良かったけど、まあまあ良いんじゃないか。ここがもし最前のままなら、目玉のケチャも没入して楽しめそうだ。観葉植物は邪魔だけど、演奏が始まったら除けられたりするんだろうから大丈夫だろうということで、決定~。会場内に流れるガムランの音色*1に癒されながら、水分補給。さっきもらった「ケチャまつりガイド」にも目を通してみよう。どれどれ…

 

今年のケチャまつりのテーマは、《絆の脳機能が炸裂する祝祭空間》です。〈絆の脳機能〉とは、〈気配〉、〈以心伝心〉、〈阿吽の呼吸〉などを司る脳の働きで、生命と生命、人と人とを直接結びつけるこの脳機能は、だれにも生まれつき具わっている本来のものです。とりわけ、猛烈な速さの16ビートのリズムを指揮者なしで実現するケチャは、この〈絆の脳機能〉の精華をだれもが実感できる特別な芸能です。

(『ケチャまつりガイド』p1「ご挨拶」より引用)

 

なるほど。伝統音楽を通じてみんなで繋がろうと。絆の脳機能、カッコいい。このガイドには、それぞれのプログラムの細かい説明だけでなく、芸能山城組メンバーによる研究論文まで載っていた。ふえ~幅広い。論文の中には、生物の自己複製/解体の仕組みを輪廻転生に接続するという超壮大なものもあった。その著者は、主宰の山城祥二(大橋力)だった。凄いところまで辿り着いてる…。

…当然といえば当然だが、結構スピリチュアル。たぶん何も知らない人は、この文章に科学的裏付けがあるにしても、芸能山城組新興宗教だと勘違いする可能性がある。ある程度情報を持っている私でさえ、失礼ながら一瞬「本当はヤバいんじゃないか」とか思ってしまった。もちろんヤバくないですよ!!!!!!!!

 

14:30 - じゃんがら念佛踊り、鹿踊

演目が始まった。まずは福島県いわき市からじゃんがら念佛踊り。座っている階段の右側から太鼓と金物の音が聴こえてきた!ドンドンドドドンドン、、ドン、、近くで見れそうだ、ラッキー!間もなく甲子園みたいにプラカード先導で入場。奏者は結構若い。祭りって感じでイイネ!行進して、そのままステージ下手側へ。そしてUターン。真ん中に戻ってくるのかと思ったら、下手側で歩みを止め固まって整列。

 

行かないで~

 

遠い!!!真ん中はジェゴグの準備で狭くなっていて、下手側の方が広いからなのか。一発目から遠目での鑑賞となったが、楽器の音はデカかったので、まあそこまで気にならなかった。金物がカッカカッカとシャッフルを刻む上で太鼓が遊んだり、その逆もあったり、意外とタイム感がルーズだったり(拍頭すら)、フレーズが所々変則的で読めなかったり、3:4ポリリズムを形成していたり、色々発見があって面白かった。「絆の脳機能」をスパークさせるトランス感も勿論あった。声だけは遠かったので聞こえにくかったけどしょうがない。

 

次は岩手県奥州市から鹿踊(ししおどり)。今度は金物が無く全員太鼓(しかも音が低く圧がある)で登場。先ほどと同様こちら側からパンチのある打撃音が聴こえてきた。見た目も出音通り強そうだった。鹿を模したらしいCOOLな被り物に、何よりも目を惹くのは背中から生やしたササラと呼ばれる一対の長い竹(に白紙を巻いたもの)。

 

カッコいいし長い(退場時撮影)

 

こちらも先程と同様、下手側に固まってパフォーマンス泣。踊りの内容は、簡単に言うと鹿の群れがかくれんぼしたり(『雌鹿隠し』)カカシにビビったりする(『案山子踊』)という可愛らしいもの。でも迫力ある。揺らぐユニゾン。鹿のリーダーが主旋律的なリズム、それ以外が伴奏的なリズムを奏でる。相補的に嚙み合っているときもあって、これはガムランの奏法(コテカン)にも通ずるな~と思った。踊りも面白い。リズムに合わせて首をカクッと傾げる動作がチャーミー。特筆すべきは、ササラを地面にペチッと叩きつける派手なヘッドバンギングやはり視覚的にインパクトが強く、客席からも「おぉ~」と驚きの声が漏れていた。面白かった!

15:30 - ジェゴグ

ここからはバリ島の伝統音楽にシフト。ジェゴグ、通称竹ガムラン。有名なAKIRAの劇伴『交響組曲AKIRA』を演奏するということもあってか、子連れ、若者カップル、外国人と急激に人が増え、会場が賑わってきた。

 

コーンも

 

まずはジェゴグだけで演奏。ハンマーみたいなバチで一斉に竹を叩いて半端ないうねりを生み出す催眠アンサンブル。結構低音が強い。やがて旋律よりもパーカッシヴな面が前景化してきて、音がボヤけて実体が掴めなくなり、以前Steve Reichの《Drumming》を生で聴いたときにかなり近いトランス感覚に陥った。身体的な体験が繋がった。

 

続いてはキーボードとエレキドラム、男性陣による歌唱を加えて『交響組曲AKIRA』。

 

キーボード(右)、エレキドラム(左)、そしてボーカル(右後ろ)

トランス感覚にビートとメロディを足してポップな音に。キーボードはのぺっとした音色がちょっと浮いてはいたけど、悪くない。男性陣は前に出てスタンドマイク~とかじゃなくて、ゆるく輪になってハンドマイクなのがなんか良かった。らっせーらーらっせーらー。《クラウンとの闘い》の「ヒーハー」が結構音源に近くて嬉しかった。

「手ほどき」のコーナーでは実際に楽器を触ることもできた。「全員が楽器に触れられるようにする」とのことだったので、ちょろっと。山城組のお姉さん曰く、音が筒の穴から前に出るという構造上、演奏中は自分の音がほぼ聴こえないと。へ~。

希望者全員が体験を終えて長蛇の列が自然解消するまでちゃんと時間を設け、会場が良い感じに温まった中、締めに一曲演奏(曲目は記憶していない)。良かった。

一つだけ、観葉植物で遮られて中央に位置する一番デカい楽器(実はこれをジェゴグという)の演奏姿が全く見えなかったのが残念。

17:00 - ジョージアブルガリア伝統合唱

演目の時間が近づき辺りを見渡すと、みんなこっちを向いていた。一体どうしたのかと振り返ったら、ちょうど真後ろに浴衣を着た合唱団がスタンバイしていた。首をひねりながら観るのもつらいので、身体の向きごと変えて座り直した。

 

ブルガリア女声合唱

はじめに女声のブルガリア合唱。指揮者不在、視線も一定、身振り手振りもなく直立不動であるにも拘わらず、非常に息の合ったパフォーマンス。神々しいハーモニー。流動的なホモリズムが揃うのも凄い。声量の操作も圧倒的。無音から徐々に、乱れることなく滑らかに声が立ち上がっていく瞬間が美しすぎて。〈絆の脳機能〉恐るべし。

男声のジョージア合唱は、全体が束になって上下に動くよりも、明確にメロディを担当する一人と低音ドローンを保ち続けるその他といった構造が大きくあった気が。また異なる趣きがあって面白かった。途中からセミの鳴き声と共鳴して聴こえてきた。夏の野外演目ならでは。女性ソリストが加わった《オロヴェラ》は賛美歌みたいで良かった。

17:44 - 元祖山城流バナナマン

唯一の大道芸枠。バナナマン*2がバナナを売りに来るらしい。一体どういうことなんだ。叩き売り自体見るの初めてだし、バナナ専門となるとより分からない。調べてみたら日本では結構歴史がある伝統芸能だと知る。でも山城流ってなんだ。そんなことを考えていたら、ドンチャンと太鼓を鳴らしながら売り子が三人ほどやってきた。まだバナナマンは居ないっぽい。籠から取り出したひと房十数本のバナナ、これを今から叩き売りするという。

まずは強気に板のようなものを地面に打ち付けて「1億円!」。一発目のボケとしてあまりにもベタだったのかジワッとした笑いが。もちろん誰も買ってくれないので、値下げ。たしか100万円くらいまでしか下がらず、当然売れない。ここであの人に助けてもらおうと。「せーの!」「「バナナマ~ン!」」「声が小さい!」といった流れを三回くらいやり、ようやく登場。

下手側の1階を見上げると仁王立ちする全身黄色おじさんが!バナナマンだ。なぜかベートーヴェンの《運命》という悪役感が強い音楽をバックに螺旋階段を駆け下り、ジャンプ。そして持ち前の飛行能力を発揮。

 

空中飛行するバナナマン(補助有)

 

会場を飛び回りながら、今度は《ウルトラマンのうた》の替え歌(ウルトラマンバナナマンになっている)を歌いながら、我々に向けて水鉄砲を無差別に乱射し始めた。酷暑の中での粋な?計らい。子供が「こわ~い」と言いながらダッシュで逃げていて、つい笑ってしまった。

 

水鉄砲を無差別に乱射するバナナマン

 

しばらくして、バナナの叩き売り本番が始まった。堂々とした佇まいでのっそりと歩き回りながらバナナの良さを力説。今ここにあるバナナは実はひと房108本あって、食べれば煩悩から解き放たれる(?)らしい。栄養があるという理由で皮をほぼ剥かずにケチャップと辛子をかけたバナナホットドッグをたまたま目が合ったおじさんに食べさせる(?)。余ったバナナは、ラスタカラーのタム帽を被ったお兄さんが2,000円で購入。バナナを頭に被せられレゲエ感が増した彼を、会場全体で「お手を拝借」からの手打ちをして称えた。盛り上がってきた。

続けて、18歳未満お断りのアダルトバナナ(さっきと同じひと房十数本)を若いお兄さんが10円で購入。身分証明書で年齢確認もしっかり。超破格。しかしバナナマンは、全部売るとは言っていなかった。「人生は甘くない」とメッセージを込めて1本。30円出してくれたのでおまけでもう1本。残りは、おばさんが1,000円でゲット。

 

バナナホットドッグを食べさせようとするバナナマン

 

着実に会場を盛り上げていて良かった。ベテランだ。

18:02 - ガムラン

ちょっと時間が押していたからか、バナナマンが演目を終えて拍手が巻き起こってから2~3秒後、シームレスに演奏が始まった。びっくりしたが、すぐさま真剣鑑賞モードに切り替える。私は正直ケチャよりもこちらの方が気になっていた。去年ガムラン入門 インドネシアのジャワガムランと舞踊』という本でガムランを勉強して以来、生演奏を聴きたいと思っていた。アンサンブルのうねり、タイム感、奏者のリズムの取り方、ゴン*3の低音、そして可聴域を超える超高音ことハイパーソニックサウンド。気になることがいっぱい。期待いっぱい。

 

トロンポンが活躍する《ヤマ・サリ》

 

まずは「速い」と思った。私が上記の本で知ったのは落ち着いていて緩やかなジャワ様式。今回の演奏はハイテンポで多彩な展開を見せるバリ様式。開幕からその迫力にかなり驚き圧倒された。様式の違いってこんなにデカいんだなあ。あと笛とかもあるんだ。

それで「速い」とどうなるか、拍感覚がよりこんがらがる。少なくともジャワ様式では強拍と弱拍が西洋音楽のそれとアベコベだということは知っていて、これをバリ様式に適応させて聴いてみたら全然頭が追いつかない。どうやって拍を捉えているのか余計分からなくなった。みんな姿勢よくピンと動かないのもあって本当に謎。

途中で、どこからともなく風に乗ってきたハーブの匂いが鼻に。これは偶然?演出?薄暗くなってきて香りまでバッチリ、とにかく雰囲気が「ガチ」になってきた。

音響に関しては、想像よりキンキン尖った感じがなく、アグレッシヴな演奏でもリラックスできるような感じ。ハイパーソニックサウンドのおかげで音域の天井が高くなってるとか?どこかまろやかな響きが不思議だった。

ひとりで演奏するにはデカいトロンポンも観れた。間をたっぷりとるソロに惚れた。

 

踊るスマラとラティ(《レゴン・スマラダナ》)

 

舞踊《レゴン・スマラダナ》では金ピカの豪華な衣装を纏ったダンサーが、ステージ中央から登場。クネクネカクカク踊る。モフモフのシヴァ神も出てきて楽しそうだった。

すぐ終わった。あれ?一番集中してみたはずなのに(むしろ集中したからか)一番記憶が薄い。*4想像以上に複雑かつとてもトランシーだったので、咀嚼を待たずして感覚が飛んで行った…もしくは身体に直接インストールされたかのどちらか。簡単に言うと、翻弄された。ガムラン奥深すぎ。

19:16 - ケチャ

最終演目は目玉のケチャ。流石に最終日ともなると入場規制でパンパンに。

 

 

混雑管理のため、前に座椅子が置かれ…

 


見えない♪

 

 

辛うじて点火の瞬間だけ隙間から見えたが、それっきり様子がわからなくなってしまった。門から凄い衣装の人が出入りするところだけしか確認できず。ほぼ音しか聴こえなかった。ケチャは『ラーマーヤナ物語』の劇部分もかなり大事なので後半からはちょっと退屈になった。もどかしかった。完全に位置取りミス!

しっかり聴こえてきた情報、ケチャの16ビートは存分に楽しめた。「チャ!チャ!チャ!」が決まる瞬間が爽快。でもやっぱり劇が見たかった😭

20:02 - 終演

全部ひっくるめて、結局は楽しかったのでおk!!!!!!!!!!!ここまでのパフォーマンスを見て何も払ってないのは気が引けるので、流石に賽銭箱に気持ちを入れてきました。刺激刺激刺激デイでした。

芸能山城組創流50周年おめでとうございました!!!!!!!

 

位置取りについて

  • 立ち長時間はおすすめしない
  • お尻にやさしいクッションか何かを敷いて座ろう
  • 中央 >下手側 ≧上手側?
  • 階段はできるだけ上の方に座ろう
  • 日が出ている間は木陰
  • 日が落ちてくるかその前に中央の地べた
  • ケチャだけ立ってみるのはアリかも

こんくらい!

 

*1:Shazamしたら『翠星交響楽』収録の《黎明》《邂逅》が引っかかった。

*2:漫才コンビの方とは無関係。こちらの方が名乗りも先らしい。

*3:厚い銅鑼みたいなやつ

*4:この現象はDos Monosのライブでも起きた。