やあやあやあやあやあ、
GOGOGOGOGO、
あついぜ!雲一つない快晴!すごい!
会場には老若男女。親子もいっぱい。良い雰囲気。
やっぱりロケーションが面白すぎる。普通にマンションと工事現場が隣接していて、イベント自体の非日常性を際立たせている。
左右の門の上にはMarshallアンプとギター。
4つの象限に配置された総200のシンバルたち。元気にきらめいている!
シンバラーたちの準備が整ったらしい。指揮者の∈Y∋は全身黒ずくめ+フルフェイスの恰好で担架に横たわり、クレーンでゆっくりと吊り上げられる。1分くらいで川の中心付近に留まり、静止。男の子の「早く始めて~」という声で暖かい笑いが起き、それに応えるように間もなく演奏が始まった。
4人のシンバルリーダーの指示で、皆一斉にカラカラとシンバルスタンドを叩き出す。スティックを叩く者も。ついでに出所が分からないガムランのような音まで聴こえる。呪術的な空気が一気に会場を包み、改めて人の多さを感じる。しばらくするとシンバルリーダーがスティックをバツ印に交差させ、シンバラーは一旦休み。代わりにポーーンとギターのハーモニクスだけが鳴り響く。ささやかに伸びて、自然に減衰し、消えると同時に∈Y∋が空に人差し指を掲げる。会場中の視線が一点に集まる。静寂。演奏前の和やかな雰囲気とは打って変わって、話し声は殆ど聴こえない。10秒の緊張。指揮者が手首を回転させ、重力に任せる感じでだらりと腕を下ろすと、さまざまな種類のシンバルが優しく散らばる。拍子やリズムの指定はなく、予備動作も短いので、タイミングに有機的なうねりが生まれる。間を大きく取りながら、まずはこれを繰り返す。
次は、腕を向けられたセクションのシンバラーが音を鳴らし、腕の上下の動きに従って音量を流動的に変化させる。ざわざわ。両手で対角線上の二つのセクションを同時に操作。腕の角度が上昇し、やがて掌同士がピタッと重なり動かなくなると、最大音量のシンバルが打ち鳴らされる。自分に近いAセクションがフルパワーのときは、しっかり耳がヒリついた。嬉しい。
ここまでは予想範囲内。ほどなくして驚くべきことが起こった。指揮者が両腕を激しく振り子運動させると、シャワシャワとざわめくシンバルの高音とギターの地鳴りの如きフィードバックノイズがシンセサイズしながら前後に揺れ動き、飛沫を上げ躍動する大波が生まれた。隠喩ではなく本当に大波そのものが生まれた。「音の洪水」「音の波」などの言葉も比喩に留まらない。目には見えないとはいえども、確かに水の質量を聴いて感じることができた。感動より畏怖!ザバーン!
「変わった場所で変わったことをするらしいから観てみよう」といった希薄な好奇心だけで足を運んだわけだが、そもそもこれは荒川放水路の100周年を祝うイベントなんだった。
昔は、“荒ぶる川”だった荒川。一世紀前にたくさんの人の力によって放水路が作られたことでこれまで100年私たちを守ってくれたように、気候変動による自然災害の激甚化が叫ばれる中、これから100年先の未来もこの川が穏やかでありますように。みんなで鳴らすシンバルの音の波・音の渦が、流れる水を清く澄み渡らせるような、誰も聴いたことのない大きな音のうねりを創りたい。そんな願いを込めて、11月3日いざ決行。
(Arv100 公式HPより引用)
鎮火祭で火を燃やすように、治水を祈るときには大波を立てる必要がある。そういった原始的な部分は引き継ぎつつ、シンバルやエレキギターなどの機材を使っていたり視覚ではなく聴覚だけで模倣を成し遂げたりしている点では近代的。なんか呪術について知りたくなってきたぞ!
模倣タイムはすぐ終わった。シンバルはさまざまな奏法を通して非日常空間を広げていく。両手を握りぐるぐる回せば自由演奏。細かく乱れ打ちする人、ピョンピョン飛び跳ねながら叩く人、間を大きく開けて片手でパワフルに鳴らす人と二百者二百様。フリーで楽しい。手の平を身体より下に下げればミュート演奏。静かに音の層を作り、ギターが柔らかいハーモニクスを乗せる。次第にギターの変調も激しくなり、音量上下に伴ってスウィープサウンドを放ち上下させていた。
これもまた凄かった、グルグルドカン。指揮者が手を上に挙げて三回転させたのち振り下ろすと、シンバルクラッシュ!!!三回転という分かりやすい予備動作があるので、タイミングが合う。ドデカい煌めきの衝撃波が飛んでくる。ギターも合流。煌めきが増してとんでもない音になる。徐々に音量を上げるときはドローンの状態で、三回転のときにピッチを上げ、クラッシュは超巨大規模の回復魔法。太陽に負けないくらい明るい極彩色でハジける。マリオの同時ヒップドロップみたいな雰囲気(絶対にもっと良い喩えがある)。否応なしに癒される。
それぞれのセクションに別々の速度を割り当てて複雑なサウンドスケープを長く楽しませるということもしていた。滅多にない環境で実験してる感じ楽しい。
そして、フィナーレ。グルグルドカンと上昇下降を繰り返して断続的に盛り上がっていく中、なんと門が開いてギターでもシンバルでもない謎の音の正体(がらくたドラムとモジュラーシンセ?)が船に乗って流れてきた。しかし、視線が低くて全く見えなかった!トホホ。音も手前のシンバルにかき消されて聴こえにくかった。でもキックが鳴っているのは分かった。
それで、ここまで書いて、最終盤に何があったか全然覚えていない。終わり方も。グルグルドカンじゃなくて静かにフェードアウトする形だった気がする。
「以上で…」とアナウンスが流れる。
30分が一瞬。ノイジーなのを想像してたけど、とても上品で神秘的だった。
音響に関して、近くで鳴らされるシンバルからは金属らしいアタックが強く聴こえて耳が少々痛かったので、もうちょっと距離を取って鑑賞したらよりアンビエント的に波の音を感じられたと思う。もし今後このようなパフォーマンスを観る機会があれば、あればね、俯瞰できるところに位置取りをしよう。
ピース
綺麗だな