なるたけ遠くに逃避計画

THE ULTIMATE ESCAPE PLAN

Yuko Arakiのライヴレポ(1年前)をup

 

昨年2月に観てきたSUMACのお蔵入りライヴレポ。オープニングアクトだったYuko Arakiのところだけ(ほとんど)書き終わっていたことをふと思い出した。若干修正を施したうえでサルベージしてみた。もったいないから。メインのSUMACは相当ヤバい演奏で、普通に考えればこちらを優先するべきなのだが…当時の私には音の細部を聴き取る神経がなく、それゆえ言語化できないまま記憶を飛ばしてしまったのだから、仕方ない。嘘を書くわけにもいかない。

 

 

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Yuko Araki(19:10~19:46)

 

丁度昨年度リリースされた『前日譚』は全編ストレートなハーシュノイズだったので、今回もそういう方向性なんだろうか。わくわく。

 

ペットボトル片手に登場。ヘソ出しノースリーブの全身黒統一(腰と膝あたりにダメージ加工)、そして前髪パッツン長髪。無機質でなんとなくサイバーな感じ。ペットボトルを卓に置くや否や、ぬるっと演奏が始まった。照明は落ちず、明るさを保ったまま色だけが赤から青に変わり、まずはビュオオオオ~と飛行機のジェットエンジンのような爆音に身を包まれる。直線的で低音が弱かったので、想像するのはジェットエンジンの駆動音というよりもそれが生み出す風音のほうだ。あまりに風っぽいので、一瞬、本当に風が吹いているのかもしれないと思ったが、床に垂れるコードや演者の髪が静止しているのを見て、我に返った。ここは渋谷のビルだ。音の詳細に戻ろう。音量は中程度で、耳に刺さる感じもない。今のところ暴力的ではない。

 

少しすると内臓を揺さぶる低音がゴゴゴと立ち現れた。風音だけでなく駆動音も加わった。濁りや揺らぎが前面に出てきたことで、飛行機のイメージが時間をかけて広大なノイズに溶け出していった。それでも、デジタルだからか秩序が優位に立っていて、常に整然としていた。Merzbowのようにガシャガシャした粗い質感に至っていないのは、アナログとデジタルの違いなんだろうか。演者の様子にも少し変化があった。相変わらず無表情ではあるが、BPM100くらいの速さで縦ノリをし始めた。はて?このテンポは果たしてどこから来たのか。パルスの存在しないハーシュノイズの中から直感で掴みだしたものなのか。もしくは、ノイズ側とは関係なく既に自らのリズムが定まっていたりするのだろうか。それとも、単に私が聴き取れていなかったビートが存在していたのか。少なくとも私の視界には、彼女と同じノリを共有していた人はいなかった。

 

サイバーな装いでツマミをいじるYuko Araki

 

二つのツマミを同時に回し、高音と低音を行き来する短いリズムを作り出す。ピー、ゴゴゴ、ピー、ゴゴゴ。ちょうど二回だったと思う。そのあとハーシュノイズが弱まり、キックらしき部分とスネアらしき部分が確認できるダンサブルなビートだけが反復しだした。なるほどパワーノイズ!しかもこのビートは4/4に休符を一個置いて引き延ばした、引っかかりのある17(4+4+4+5)/16拍子で、ただの4/4よりもノリしろがあって良い。照明もようやく暗くなって妖しさUP。ここからが本番らしい。ひたすら反復し続けるビート。グリッチっぽい装飾がついたり、逆再生の怪しいチャントが乗っかってきたりと変化はあるにせよ、複雑で多層的な感じは無く、比較的素朴で情報量が少ない。これからの展開に期待しつつ今はただノリ続けるのみ。

 

しばらくすると、いったんビートが遠ざかってノイズの霧に搔き消える。次は何が来るんだろう。うっすらチキチキ鳴っているのは、13(4+4+5)/16拍子。すぐに巨大化して全貌を現した。一拍目にドーンとサステインの長い地鳴りが置いてあり、あとはハイハット的なアタックが均等に並ぶ形。先ほどと同じく最後の一拍は休符で、高音のアタック部分を取れば拍節が分かる…はずなのだが、途中で13拍子とは別の軸が生まれていた。いつの間にか3拍っぽいベースラインが絡まり、12(3+3+3+3)/16拍子に上書きされてしまっていた!Yuko Arakiも周りの客もみんな12拍子で身体を揺らしている。おそらく12:13のポリリズムなのだが、テンポが速い上に差が一拍しかない(あと機械制御な)ので揺らぎをほとんど感じられないので、実質的には滑らかなメトリックモジュレーションとして作用していた。こういう技巧を使ってくるのは想定外だった。

 

再び繋ぎを経てまた拍子が変わる。たぶん63(8+8+8+7)/64拍子だった気がする。ストレートに乗れない若干の段差がある、実質4/4。展開はこれまでと同じく、多少の変化を伴う無機質な反復。空気に溶けだして、クワイアが引き延ばされたような静謐なアンビエント。リズムが無くなって持続だけになった。間もなく、音の線はゆっくり細くなって、消えた。そういえば、他のショーでサポートアクトだったENDONの『Fall of Spring』も似たような構成だったけど、意識してるのか、ノイズ~インダストリアル周辺にそういう常套句があるのか気になる。

 

ハーシュノイズからパワーノイズ。しっかり大音量でノイジーではあったものの、こちらを呑み込まんとする暴力性や浮遊感といったものはなく、硬質でミニマルなダンスミュージックのようなものとして中々に楽しめた。