《口の花火》、好きすぎる。どうなってんだろう!
ドン・ドン・タタタ!
血沸き肉躍る「ドン・ドン・タタタ」、まずはドラムでこの16分音符7拍分のモチーフが32回繰り返される!7/16×32=7/8×16=7/4×4なので色んな乗り方ができるぞ!おすすめは7/4!なんでかって、16分と8分で取ると忙しいし、割り切れる場合は出来るだけ大きい単位で拍を取ったほうが滑らかに聴けるから!そして何より、この曲の骨組みがほぼ4分音符で出来ているからだ!4分音符1個分のアウフタクトで楽曲が始まっていること、あとは以降の分析からそのことが推測できる!
(以下、自分が気になったところだけ、雑にすくう)
クラビネットとか色んな楽器が入って騒がしくなってから(0:28~)はハッキリと4拍子だ!キックは「ドン・ドン・・ドン・・ドン・・・」と16分音符16個分すなわち4/4のフレーズを繰り返し始めるぞ! ざわめきの中でクールに粒立ち抜群の点線を紡ぐSam Wilkesのベースが最高なのは言うまでもない!
最初のバース(0:44~)も同じく4/4拍子だ!ここでメロディのリズムに注目してみよう!前のめりな印象になるアウフタクト、軽快なラテン由来のトレシーロ(3+3+2のリズム)、そしてモチーフの「ドン・ドン・タタタ」と同じ割り方(2+2+3)をした7拍節のグループが確認できる!ピッチについてはド、ミ、ファ、ソの四音しか使っていない!やはりリズムに重点を置いているのか!
バース(0:44~)
次はコーラス(1:08~)だ!ここでは付点のリズムが大活躍している!付点というのは要するに音符の長さを1.5倍にする魔法で、拍頭に合う偶数のノリに対して緊張を生む奇数のノリを作り出し、リズムを複雑に彩ることが出来る!
コーラス(1:08~)※フレーズのアクセント部分だけを簡易的に表記
ポピュラー音楽において代表的な付点のリズムは?やはり上でも挙げたトレシーロだろう。8拍を3+3+2で割ったもの。3部分が付点。有名どころだとEd Sheeran《Shape of You》、SMAP《世界に一つだけの花》、Creepy Nuts《Bling‐Bang‐Bang‐Born》とかに生息している!最近流行りのJersey Clubのリズムパターンだって、後半はトレシーロになっている!長谷川白紙は《砂漠で》で分かりやすく使っている。
こいつを倍に引き延ばしたダブル・トレシーロ*1もある!16拍を3+3+3+3+2+2に割ったもので、その名の通りダブルだ!マクロに捉えるとこれもトレシーロに還元できるとはいえ、アクセントを考慮して別物としよう。日本のポップスだと小室哲哉が普及させたらしく*2、TRF《EZ DO DANCE》、相対性理論《人工衛星》とか。長谷川白紙は《o(__*)》《毒》で使っている。
で、これよりさらに長いもの、言うなればトリプル・トレシーロも存在する!コメティック《くだらないや》の2番Aメロでは32拍を3+3+3+3+3+3+3+3+2+2+2+2に割っている!三倍!TOOL《The Pot》とかCharli xcx《B2b》のベースライン*3も。そしてその先もある。四倍のクアドラプル・トレシーロだ!!!トレシーロ亜種についてはSoundQuestの最近更新された記事でもまとめられていて、テクノ/ダンス系にはシーケンサーを活用して際限なく付点を並べ続けるもの*4も少なくない!
ようやく本題に戻る。今回の《口の花火》の場合は、八倍のオクタプル・トレシーロが使われている!…オクタプルなんて言ってみたかっただけで、いちいち大仰な名前をつける必要などない。付点が多ければ多いほどいいわけではない。面白いのは、長谷川白紙がこの構造を一番手前の層にある歌メロに活用しているということ!
NEXT引っかかりポイント!大きく飛んでブリッジ(2:20~)。転調*5と変拍子でビックリしちゃう。でもここは4分音符-4拍子の骨組みに身を任せて聴くと、滑らかに繋げて乗ることができるのだ!
ブリッジ(2:20~)4拍子4小節分に収まる。※分かりやすさのために分母を統一
8/8は4/4で4/8は2/4だけど、全部8分音符単位で書いた方が分かりやすいからそうしているぞ!簡単な足し算だ!8分音符が32個あるということは、4拍子4小節を変則的に分割した結果だと分かる!ただ、4拍子と言われても、4拍子の枠を明確に示してくれる楽器がいない*6ので少々乗りづらくはある!あなたの身体に8分音符のメトロノームが備わっていれば出来るはずだ!
次はポスト・コーラス(2:29~)。〈固まるスクリーン、 て感じで〉のところにビックリする。ガタつく。しかしこれは4+4+4+3の構造の上で暴れているに過ぎない!
ポスト・コーラス(2:29~)しばらく4+4+4+3を保つ。※13小節目は雑に採譜
長いけど、こうなる。4+4+4+3を三回繰り返して、最後に4/4と7/8を一回。頭に「この曲の骨組みがほぼ4分音符で出来ている」と書いたのはここの7/8があるからで、一貫してきた4分音符のノリが途切れるのが面白い!
メロディは、こうやってわざわざ数えなくても耳に残るくらいにはキャッチー。7拍モチーフを含むバース冒頭を再現、リズムも良く分からんけど気持ちいい。採譜していない点だと、コード進行も面白い。引き延ばされた形でのIV-V-IIIm7-VIm=王道進行が確認できる(1~6小節目)。こんだけ攻めまくってもポップスど真ん中の要素をぬるっと入れてくる!憎いね白紙!
それで、ガタつく〈固まるスクリーン、 て感じで〉のところだけを拡大してみる。
ポスト・コーラスの7,8小節(2:39~)メロディとキックのズレ。
きっと、多くの人はここが一番よく分からないんじゃないかと思っている。仕組みは簡単。16分休符が最初に一拍あって、あとは付点、付点、付点。《砂漠で》のイントロ*7と同じ要領。問題なのは、キックが素直にメロディに追従してくれないこと。「か」「た」で合って、そっから16分音符1個分ズレて、「ん」「じ」で合流。キックを聴いていたら迷子になるので、前の小節から流れでデカい拍構造を大きく意識しながら聴くとよろしいかと!
それで最後の引っかかりポイント。2:54~。「ドン・ドン・タタタ」のモチーフが帰ってくる。…惑わされるな、それでも4+4+4+3だ!!
ポスト・コーラスの最後(2:54~)7拍モチーフでポリメーター。
7拍モチーフを7回繰り返すポリメーター、11(3+2+2+2+2)で帳尻を合わせる!*8
ただ一つだけ気になることがある。もし帳尻合わせのフレーズが8分音符1個分短い9拍(3+2+2+2)なら、さっき言った「7/8で4分音符のノリが途切れる」ことが無くなって、一曲通してスムーズに乗れるようになる。ではなぜ、そうしなかったのか?わからん!
ちなみにこの後の間奏(3:02~)は4/4!変調した声が13拍子(7+6)でバース直前まで鳴り続けてポリメーターを形成しているぞ!もちろん最後のバースも4/4だ!
はい!
終わりです!
たぶん大事なのは、頭でっかちになりすぎないこと。この記事を読んで一度頭でっかちになってしまった方は、頭のサイズはそのまま、身体のサイズを頭に追いつかせるよう頑張ってみてください(冗談ではありません)。無意識の中に沁み込んだら、一時的に忘れながら、より音を楽しめるようになっているかも。
自分はこの過程を経てスタート地点に戻り、色々考えています。
原文:上野動物園のキリン(声が大きい方)
翻訳:上野動物園のキリン(声が小さい方)
*1:MTO 20.2: Biamonte, Formal Functions of Metric Dissonance in Rock Music
*2:trfが日本のポップスに与えた影響 - Real Sound|リアルサウンド
*3:付点が後半まで詰まってるから《くだらないや》とは若干パターンが違う。
*4:もはやここまでいくとトレシーロの面影はなく、ポリメーターと言うべきだろう。
*5:共通音の多い属調への転調、かつ1番コーラス後半のIIm9で本来共通音でない#11=Eを既に使って調の境目をさらに潰していたためか自然に聴こえる。
*6:実は中央定位に同じフレーズを二度繰り返しているチュクチュクシンセがいるが、途中から入ってくる上に聴きとりにくいので頼りにならない。
*7:リフの最後は1+3×5になっている。