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【第三回】Meshuggahへの愛をぶちまける【1stの方程式】

かなり中途半端なところで終わってしまったので、とりあえず前回行ったデビューアルバムの楽曲《Paralyzing Ignorance》の分析で得られたものをまとめる。

Allan Holdsworth由来のフュージョン要素、オフビートの「ひっくり返る」リズムや躓く加算/減算変拍子が特徴的なスラッシュ・メタルの王Metallicaの影響に加え、RushDream Theaterにも通ずるプログレ変拍子であるABAC-AMPまで確認することが出来た。

前回書ききれなかったことに触れ、1stに隠された秘宝に迫る。

Fredrikのギターソロ

Allan Holdsworthの影が最も濃く顕れるのは無論ギターソロ。Fredrikのソロはしばしば「浮遊感」どうこうと形容されるが(前回私もそう書いた)、その理由の一つとしてあえて外した音を選ぶアウトサイドなプレイが多い、というものが挙げられる。

それでは《Paralyzing Ignorance》のギターソロはどうなっているか。

3:14~まずスライドでEbに到達。ここでのキーというか中心音はEb、ぴったりルートから始まってくれる。そのあとはEbマイナー・ブルーススケールに乗って1小節。ここまではインサイド

すぐにバッキングと同じリズムでハミ出しアウトに向かう。まずトライトーン*1を保ちながら半音ずつ3回上昇するといった音型をピッチを下げつつ2回半くらい繰り返す。音型を繰り返す技法をジャズではシークエンスと言うが、Fredrikはシークエンスを多用する。

3:22~タッピングに切り替え、半音下のアプローチトーンを差し込みつつここでもトライトーンを強調しFまで上昇。ガチガチのシークエンスではないものの音列の規則はある。最後はバッキングに追従してよくわからないハモリをかます

Fredrikはタッピング/レガート奏法に加え、シークエンスとトライトーン、そしてヘンテコな音を好むことが分かった。

ここまで書いたはいいが、正直このソロだけだとAllan Holdsworthの影響も分かりにくいので、別の曲を紹介することにした。91年にリリースした幻のEP『Psykick Testbild』にも収録されている《Cadaverous Mastication》だ。イン/アウトが入り混じった滑らかなソロを聴くことが出来る。

前半(2:07~)は「ディミニッシュの高速シークエンス」「トライトーン」「マイナーペンタ」「コードに対して半音下にサイドステップしたメシアン第3のシークエンス」と盛りだくさんだ。

「オフチョベットしたテフをマブガッドしてリット」状態になってしまって申し訳ないが…とりあえず、ディミニッシュコードもメシアン第3スケールもAllan Holdsworthが多用する要素のうちの一つだ。どちらも物理的に美しいシンメトリカルな音程で知られている。Fredrikもこの美しさの虜となってしまったのだろう。

後半(5:18~)は Bbsus4(9)→Cm9→Cbmaj9 といった9thを通わせた進行にコーダルな音を乗せている。前半から一転したインサイド一本のメロディに振れ幅を感じる。

YouTuber・TurrigenousOfficial*2はこの曲のソロについて演奏+pdf付きで解説されているので、ぜひ。

その他にも、同じく《Internal Evidence》メシアン第3が、《Abnegating Cecity》でコンディミスケールが、《Qualms of Reality》でフリジアン・ドミナントスケールが用いられていたりと…色とりどり。

リズムの鍵

「早く2ndを紹介しろ」という声が聞こえてきそう。しかし私はまだ書く。

なぜなら、Meshuggahの音楽性の変遷を語る上で1stは最も重要と言っても過言ではないからだ。過言かも。まあいいや。とにかく次はリズムだ。

前回はMetallicaの「ひっくり返る」リズムと加算/減算変拍子、そしてABAC-AMPについて書いた。書き足りないものもあるので、いろいろ。

それでは。突然だがこの曲を聴いてもらおう。くらえ!

皆さんご存知、Ed Sheeran《Shape Of You》。「2023年国内のサブスクで最も聴かれた洋楽」*3だ。なぜこんな曲を?と思われる方もいるだろう。これからするのはリズムの話。リズムに耳を傾けて聴いてみてほしい。

●○○●○○●○

繰り返されるこのリズムにはトレシーロと言う名前がついている。トレシーロはキューバン/ラテン音楽でよく使われていて、クラーヴェというリズムパターンの前半を抜き出したものでもある。またレゲエ方面ではデンボウと呼ばれていたり。

このリズムは昨今のポピュラー音楽で見かけない日は無いといえるほど定着している。ロック/メタルにおいても同様だ。例を挙げるとキリがないので、次にいこう。

トレシーロを引き延ばすと、以下のリズムが出来る。

●○○●○○●○○●○○●○●○

トレシーロが3+3+2と分けられるなら、これは3+3+3+3+2+2だ。32の数がそれぞれ倍になっている。Nicole Biamonteはこのリズムをズバリ、ブルトレシーロと名付けた*4。ダブルトレシーロもかなり頻繁に使われていて、こちらもキリがないといったらキリがない。

しかしある違いがある。こちらの方が周期が長い。長いとどうなるか。よりリズミカルになる。トレシーロ/ダブルトレシーロは双方とも4拍子に乗せるものだが、上でグルーピングしたように3拍のリズムが繰り返される(3拍子が繰り返されているわけではない)

混んでいるラーメン屋があって、1つのテーブルに4席しかない店に3人の団体客が複数来ると席が余り、ばらけて座らざるを得なくなる。(?)

これを人は「ポリメーター」*5と言う。

(※なお「ポリリズム」とは別物なので、理解できていない方はひとまずこの動画を観てほしい。直感的に理解できてとても分かりやすいのでかなりオススメ)

『Contradictions Collapse』で見られるポリメーターは比較的シンプルだが、現在に至るまでMeshuggahはポリメーターをそれはそれは高く積み上げていった。

ポリメーターの概念はMeshuggahを語る上で絶対に外せない。

ポリメーターをさがせ!

それでは、1stにいるポリメーターくんについて説明していこう。

先ほど言った通り、ダブルトレシーロは十分ポリメトリックなリズム構成であるといえよう。このアルバムには3人のダブトレが確認できた。

  • 《Internal Evidence》の3:42~
  • 《We'll Never See the Day》の2:46~から続く疾走リフの後半
  • 《Cadaverous Mastication》のイントロリフ

もちろんMeshuggahはダブルトレシーロで終わっていない。

  • 《We'll Never See the Day》の2:59~では5/4拍子で3拍のフレーズを繰り返している。グループにすると3+3+3+3+3+3+3+2+2=24([6/4])だ。
  • 《Internal Evidence》の1:04~と《Qualms Of Reality》の2番目のリフ(0:47~)では2小節に亘って3拍のフレーズを繰り返している*6。グループにすると3+3+3+3+3+3+3+3+3+3+2=32(16×2=[4/4]×2)だ。

極めつけはこれらだ。

  • 《Abnegating Cecity》の2:49~はギターとキック、シンバルが3×3=9拍、スネアが4拍のフレーズを繰り返している。前者は4回、後者は9回繰り返して頭が合う。
  • 《Qualms Of Reality》の2:54~は7/8拍子を3回繰り返したのち11/8拍子を演奏し、複雑なようで4/4に収まったリズムを形成している。

前者は最小公倍数の形で噛み合う歯車。9/4拍子で一周する。なかなかテクニカルではあるが、注目すべきは断然後者の方だ。

「7/8拍子を3回繰り返したのち11/8拍子を演奏」、7×3+11=32となる。32というのはもちろん4/4拍子に8分音符が8個含まれていて、それが4回ということだ(8×4=32)。スネアは4拍子に留まっていることからも大きく4/4があるのは明白だ。

この「複雑なようで4/4に収まったリズム」は後々確立することになるMeshuggah式リズムそのもの。デビューアルバムにして多種多様な変拍子/リズムを実験しまくったMeshuggahが最終的に見つけた一つの美学であり方程式、すべての始まりがこれだといっても過言ではないのだ。

いい感じのところで終わったので、次回は『None』EP編にしようと思う。頑張った!自分。

 

今日はここいらで、おやすみなさい。

 

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*1:トライトーンはヘヴィ・メタルの始祖であるBlack Sabbathのセルフタイトル曲で象徴的なように、クラシックでは「悪魔の音程」と謗られる傍らメタルでは親しまれている凶悪な音程。

*2:この方はAllan Holdsworthについての研究をまとめた5時間超えの動画もアップしている。私は未視聴だが今後観る。

*3:https://x.com/komatsushima/status/1748142164503376223

*4:MTO 20.2: Biamonte, Formal Functions of Metric Dissonance in Rock Music

*5:「ポリメトリック」と呼ぶ人たちもいるが、meterが形容詞化した単語を名詞として用いるのは甚だ疑問である。

*6:Tool《The Pot》でも同様の構造が見られる