音楽を食べていくよ!

音楽以外も食べていくよ。

微分音という深淵

 

大半の日本人は半音の世界で生きている。

 

ピアノを想像してもらえると分かりやすいが、白黒関係なく隣り合う鍵盤は半音の関係にある(全音は二個隣)。しかもその半音はオクターブを機械的に等分して出てきたもので、その等分方法には12平均律という名前が付いている。流行している音楽は大体ピアノで再現できる。最小単位が12平均律により生み出された半音であるという共通認識を基に曲が書かれているからだ。音楽にさほど詳しくない受け手側は少なくとも義務教育の範囲内で半音単位のモノサシが与えられるが、逆に言えばそれしか与えられない。

 

私は3年ほど前まで半音の世界しか知らなかった。半音の世界に住んでいて、半音の秩序で作られた音楽しか聴いて/弾いてこなかったので、「普通」で「常識」な半音に疑問を持ったことなど一度もなかった。

 

ところがある日、この動画に出会って衝撃を受ける。

 

 

微分とは、半音より狭い音程のこと。半音という「常識」を打ち破る、より細かく世界を捉えるモノサシの存在を知ったのである。「普通」の半音を生む12平均律に対し、上の動画ではなんと53等分した53平均律が使われている(ダとかデとか各音程の名前については独自のものなので注意)。興味が湧いたと同時に、何か知ってはいけないものを知ってしまったような気がして怖くなった記憶がある。

 

音楽理論を知っていくうちにも色々調べて、純正律ピタゴラス音律、ミーントーンなどを知り(これは微分音というよりも平均律ではない調律ではあるが)、この前読んだ『〈無調〉の誕生』では微分音を使った音楽がいわゆる無調とも繋がっておもしれい!となった。それでも深く微分音の世界に入るようなことはしてこなかった。でも怖いもの見たさ?で、たまに気になって覗いてしまう。今日もそういう日であって、自動車教習所修了検定の勉強をする合間、ネットの荒波を旅して深淵の手がかりをリサーチした。

 

天才音楽魔人ことJacob Collier関連の動画を、手で顔を隠しつつも指の隙間から恐る恐る観たり、微分音のメモ帳とかいうサイトを眺めて、ためになりながらもヒエ~と思ったり、した。それくらいだが、じゅうぶんこわくなる。

 

個人的には「ただでさえ12平均律の音楽でさえ可能性を捉えきれていないのに、制限を広げちゃったら逆に収拾がつかなくなりそう」という考えを傍らに聴いたり作ったりしているので、足を踏み入れ辛いのだ。別に一度入ったら抜け出せない底なし沼って訳では全くないんだけれど。うーん。修了検定受かるまでちょっとステイ!

 

しばらくは半音の世界で暮らす。