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【第二回】Meshuggahへの愛をぶちまける【ルーツを辿る】

私が恋してやまないメタル・バンド、Meshuggahの全力プレゼン第二弾。

昨日はまずメンバーについて軽く紹介した。

一応、改めて書くと、Meshuggahは以下の5人からなる。

これからの記事には文章の読みやすさのためメンバーの名前に担当楽器を付記したりそういうことはしないので、まだ把握できていない方はより詳細な情報もある前回の記事に目を通すことをオススメする。

今回はその特異な音楽性の特異たる所以についてつらつらと語っていきたい。

それでは…

百聞は一見に如かず、というより百見は一聞に如かずということで。

とりあえずはこのMVを一通り観て/聴いて、Meshuggahワールドへの一歩を踏み出して欲しい。2004年の4thアルバム『Nothing』より《Rational Gaze》をどうぞ。

彼らのディスコグラフィの中でも比較的とっつきやすく人気があるナンバーだ。ライブでも2番目に多く演奏されている*1。空耳で1:12~が「I like juice」に聴こえるといったミームも有名。

…そんなことを言っても、「変なリズムで、大したメロディも無いしボーカルは叫んでるだけだし、つまんなくてうるせー!!!」と拒否反応が出た方も少なくないと思う。どうかブラウザバックをせずこのままStay Tuneしてもらえると嬉しい。

再生してすぐ耳に入ってくるのが重苦しい低音の壁だ。「メタル」を知ってはいてもこんな音は聴いたことがない、という人もいるだろう。

これはベースでもシンセでもなく、8弦ギターの音だ*2

増える弦

まず、最も標準的なギターは6つの弦を張ったいわゆる「6弦ギター」だということを確認しておこう。

1990年ごろ、ある男がギターの可能性を押し広げた。超絶技巧ギタリストとして名高いSteve Vaiである。日本の楽器メーカー・Ibanezと共同開発した「7弦ギター」、その名もUniverseを世に放ち、新たな音楽の種をまいたのだ*3

6弦のそれより低くヘヴィな音が出せたことから、Kornは一足早く7弦ギターをメタルサウンドに持ち込んだ。ニュー・メタルを産んだ彼らのデビューやプログレッシヴ・メタルバンドDream Theaterの台頭を皮切りに7弦ギターはたちまち広がり、音楽界に革新をもたらした。

ちなみに、Meshuggahは上2つのバンドと直接的な接点はない。
順当にさらなるヘヴィネスを求めれば弦が増えることは必然だろう。
先に言ってしまうと、8弦ギターの火付け役はMeshuggahなのだ。では、なぜ彼らは8弦ギターの境地に達したのか。先ほど聴いてもらった《Rational Gaze》は4枚目のアルバムの曲であって、最初からあれほどドギツイ音を出していたわけではない。彼らのルーツや精神性を辿ってその謎を明らかにしていこう。
なお、ここからは音楽理論の用語もバンバン出していくのでご容赦。

フュージョンからのハーモニー

1991年、Meshuggahは1st『Contradictions Collapse』をリリースした。自由の女神とキノコ雲という矛盾(=Contradiction)したモチーフが描かれた、デビューアルバムにしてなんとも不吉で終末的なジャケットだ。

なお、この頃はDickはおろかMårtenすらおらず、Jensはボーカルと共にリズムギターを、Fredrikはボーカルも務めていた。

メンバー編成含めて現在のスタイルからはかけ離れたもので、ひたすらに初期衝動と荒々しさが詰まっている。ただ、それと同時に彼らの影響が最も色濃く表れた作品だともいえる。すなわちルーツを分析するのにうってつけということだ。

まずは1曲目の《Paralyzing Ignorance》を取り上げよう。

のっけからよく分からない音使いとリズムに振り回されてしまう。そして先ほど聴いた《Rational Gaze》とは全く違ったパサパサしたサウンドにも驚くことだろう。

とりあえずリズムはシンコペーションの効いた6+5=11拍子だ。

音使いについてはFredrikのものだ。前回書いた通りFredrikはジャズ・ロック/フュージョンの巨匠であるAllan Holdsworthから多大な影響を受けている。この浮遊感はまさにそれだ。

20秒からのイントロで何をしているかというと、普通のメタルなら2本のギターでユニゾンさせるパワーコードを、片方だけずらして弾くことによりハーモニーを作っているのだ。具体的には…

  • G5 + D5 + ベースD → Dsus4(D, G, A
  • F5 + Bb5 + ベースF → F7sus4(F, Bb, C, Eb
  • C#5 + F5 + ベースC# → C#maj7(C#, F, G#, C

こんな感じだ。コードの上にコードを重ねる、コードを合成するという技法はジャズの世界においてアッパー・ストラクチャー・コード(UST)として多用されているが、今回のハーモニーはその合成元の素材をトライアドではなくメタル由来であるパワーコードの形に落とし込んだものだと解釈できる。

コード進行についてはあるシステムに依拠して作られたものではなく、感覚的なものだと推測している。なにせ本人も「録音するときは基本的には感覚に基づいたアプローチをとる」と言っている*4正直Allan Holdsworth方面のリサーチは足りていないので、この手癖にそっくりだとかそういうことはあるかもしれない。

Metallicaのリズム

Allan Holdsworthばかり取り沙汰されるが、Fredrikの根底には言わずもがなメタルがあることを忘れてはいけない。最初期に所属していたMetallienの音楽性はMetallicaを筆頭とするオールドスクールスラッシュ・メタルの影響を色濃く受けたものだ*5。なおMeshuggahの前身はCalipashで、Metallienはあくまでも関連したバンドといった立ち位置にある。

39秒あたりからはフュージョンの気が消え、スラッシュ・メタルの刻みが表れる。パワーコードを装飾しつつ徐々に盛り上がっていく。1:08~不規則なアクセントを取りつつ4/4を4回繰り返し、最後に8分音符1つ分空白を開けたのち倍テンに急加速する(つまりは4/4×4+1/8)。

ここからは、裏表がひっくり返るようなリズムが見られる。シンバルとスネアは全部裏であることを意識して聴くと理解しやすいかも。

さて、このひっくり返り具合はというと、Metallicaだ。

曲単位で言うと《Fight Fire With Fire》《Blackened》などを聴くと同様の「ひっくり返り」が散見される。この「ひっくり返り」は今後も使われるテクニックであり、彼らにとってMetallicaの影響がどれほど大きいかが見て取れる。

JensのガサツなボーカルもJames Hetfieldに似ている気がして、面白い。

1:47まで4/4拍子が続き、続いて8+7=15変拍子が展開。左右から男臭い合いの手が入る。Jensがギターフレーズのキーに合わせて歌っている点にも注目だ。

ここまで登場した変拍子をまとめてみよう。

  • 0:20:6/4 + 5/4
  • 1:08:4/4 (=8/8)  × 3 + 9/8
  • 1:47:4/4 (=8/8) + 7/8

このうち1:08は8から9に増えている「ちょっと長い」タイプの変拍子

0:20と1:47のものは6から5に、8から7に減っている「ちょっと短い」タイプの変拍子だといえる。

ここでまたまたMetallicaの登場だ。1st収録《Hit The Lights》の1:09~、コーラス部分を聴くと8+7の「ちょっと短い」変拍子があるじゃあないか。同様に2:33~にも発展した形の8+8+8+7が見られる。

かの有名な《Master Of Puppets》のリフも「ちょっと短い」一派だ。

 

 

《Battery》1:56~の4+4+5《Blackened》1:36~の7+7+9など、「ちょっと長い」タイプももちろん存在する。

そう、Metallicaが「ちょっと長い」(加算)と「ちょっと短い」(減算)で作ってきたような変拍子のスタイルを、Meshuggahは明確に受け継いでいるのである。

プログレの潮流?

2:28~ 3/4拍子に3連符のアプローチを取り、リフチェ~ンジ。

2:30~ 6+5, 6+6, 6+5, 6+7と移り変わる。すなわち11+12+11+13。A+B+A+Cと表したとき、A<B<Cとなる変拍子だ。Greg McCandlessはこのようなリズムパターンをABAC Additive Metrical Process(ABAC-AMP)と名付けている。

ABAC-AMPは先ほども挙げたDream Theaterの楽曲に多く見られ、その由来はプログレッシヴ・ロックのパイオニアであるRushの楽曲《Cygnus X-1》冒頭のリフだと言われている。

ABAC-AMPの生まれはRushが有力だということが分かったが、MeshuggahはRushの影響を受けているのだろうか。

まず、MårtenとTomasは共にBarophobiaプログレッシヴな音楽を演っていたこともあり、インタビューでRushの名前をたびたび口にしている*6*7。JensとFredrikのCalipash組はというと、メディア露出が控えめ+無口なこともありどうも情報が少ない。Jensに関しては情報が無い。Fredrikに関してはRushを聴いていたというJensによる言及が99年時点であった*8が、それ以前は定かではない。

そもそも上述したようにこのアルバムにMårtenは参加しておらず、Tomasが編曲に関わっているのは《Abnegating Cecity》《Choirs Of Devastation》だけだ*9

《Paralyzing Ignorance》はRushの影響が明瞭でないJensとFredrikが書いた曲。

ではABAC-AMPの出どころはどこか。可能性は推測するに2つ。

  • 「普通にRushを聴いていた」
  • Metallicaスタイルの延長線上」

ABAC-AMPは別の捉え方をすることもできる。[a+a'+a+a''] というリズムの前半部である [a+a'] をAとすると、[A+A'] と表せる(数学みたい)。それでもってA'はAよりちょっと長い。

変拍子の基本の一つである加算と減算をさらに拡張したものと考えれば良いのだ。

例えばイントロの6+5、1:47~の8+7は減算型。

ABAC-AMPにあたる2:30~の11+12+11+1323+24と表してしまえば加算型ということになる。

Meshuggahの創造力を以てすれば、Metallica式の加算/減算変拍子の延長線上として自ずとABAC-AMPに到達したともじゅうぶん考えられる。

ABAC-AMPの話が長くなりすぎてしまった。

締められないまま次回に続く。

このペースだと見通しが不安だけど、とりあえず続ける。次回も1stについて深堀りし、できれば2ndにいきたい泣。

 

今日はここいらで、おやすみなさい。

 

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