なるたけ遠くに逃避計画

THE ULTIMATE ESCAPE PLAN

プログレメタル大集合ライブに行ってきたよ【Realise It Yourself vol.1 @EX THEATER ROPPONGI】

 

(※これは半年以上前…去年冬に行われたライヴイベントについてのレポートです。年を越す以前に7割以上完成していましたが、急に文章が書けなくなったため、尻切れ状態のまましばらく放置していたものです。ただ、やはり折角ここまで書いたのに勿体ない!と思い、気合いで完成させました。記憶の軽い断絶もしくは風化により、Pain of Salvationの項以降は若干内容が薄くなってしまっていますが、ご了承ください。)

 

2024年11月26日。Realising Media主催のプログレメタルイベント『Realise It Yourself vol.1』に行ってきた。出演バンドは四組。Realising Mediaの中心人物・今西勇人氏が率いるジェント/ポスト・ロック/マスコアバンドCyclamen。ジェント黎明期に活躍し2017年に解散したものの、今年の夏に晴れて再結成を果たしたばかりのホカホカTextures。ジャズ・フュージョンデスメタルの宇宙的融合Cynic。ヘッドライナーを務めるのは結成40年にして初来日のプログメタルバンド、Pain of Salvation。日本、オランダ、アメリカ、スウェーデンと、国境を越えたミュージシャンたちがメタルの名の下に集結する貴重な機会。

 

私個人の話をすると、正直なところ、どのバンドもニワカどころか知識ゼロに等しかった。それでも参加を決めた理由は二つ。まず第一に、メタルが好きだから。「好き」に知識の多寡は関係ない。次に、一昨年からハマり続けているMeshuggahに近いバンドたちが揃っているから。これが結構デカい。CyclamenとTexturesはMeshuggahの影響を受けたジェントシーンで生まれた。一方、CynicはMeshuggahに影響を与えた。Pain of Salvationについては音楽的影響の話は見当たらないものの、同じスウェーデン出身であり、過去には元MeshuggahのベーシストGustaf Hielmが在籍していたという人脈的な繋がりがある。自分のツボに隣接する形で脳内音楽マップを広げられる絶好のチャンスだ。将来線になるかもしれない点を大量に拾えそうだ。それに、特に後者3組は評判の高さを目にしていた。後悔だけはしたくない!そんな気持ちで参加を決意した。

 

とにかく本題に入ろう。

(以降、演者は敬称略)

 

 

会場到着(15:40)

 

ギロッポン a.k.a. ポンギ またの名を ロッポギ、濁点と半濁点のリズムが心地よい街をスマホ片手にうろつき、ルイーズ・ブルジョワのデカい蜘蛛と不慣れな地下道に翻弄されながらEX THEATER ROPPONGIへ辿り着く。液晶モニターにイベントタイトルがドカンと映し出されている。わー

 

EX THEATER ROPPONGI 地上出入口

 

開場は16時とのことなので全然早いが、早いに越したことはない。カウンターでスタッフに受付番号と名前を伝え、手作りのリストバンドをGET。My number is 2068。千の位でVIPスタンディング/スタンディング/VIPシーティング/シーティング/エコシーティングかどうかを判別する仕組みになっていて、私はスタンディングなので2から始まっている。要するに2-068で、2068番目という訳ではない。

 

両面テープをはがしてつけた

 

無事に入場の権利を手に入れたところで、階段を上り2階へ移動。広いモダンな庭園に人が少しばかり集まっている。これは…同志でよろしいか。とりあえずアナウンスが来るまでテキトーに座って待つことにした。

 

EX THEATER ROPPONGI 2階庭園

 

ここで客層チェック。中高年が多そうな感じ。真ん中の人だかりはスタッフのアナウンスによればVIPの人たちの待機列らしい。出演バンド(特に初来日のPoS)に対しての熱量を考えると年齢層が高くなるのも頷ける。だいたい5~60人ほどいる中で、今のところ女性は数人。PoSは女性人気も高そうだけどどうなんだろうか。

 

15分経過し開場予定時刻の16時に。スタッフの方が青いバンド(=通常スタンディング)の人を呼ぶ。私も立ち上がってVIPたちの右側に番号順で列に加わる。ここで再び周りを見渡すと、レザージャケットを着ている人が多かったような。前回行った『leave them all behind 2024』とは違って完全にメタルだからな~。驚いたのは、SikthのTシャツを着ている70代くらいのおばあちゃんがいたこと。付き添いにしても凄い。

 

入場(16:22)

 

16:03にVIPシーティング、16:17にVIPスタンディングが入場。22分になり、曇り空を見上げながら折畳み傘の携帯を確認していると、ようやく我々通常スタンディングの入場に。わーい。ガラス張りの部屋を通り、階段を下って出入り口から見えた1階ロビーに着いた。流れるように物販(やってたのか分からない)を通り過ぎ、600円でドリンクチケットを手に入れ、エスカレーターで更に下る。

 

急ぎ足で

 

地下二階にあった小さいブースで会場オリジナルのミネラルウォーターを交換。地下三階の奥にある通路を進み、フロアに到着。

 

地下三階・スタンディングフロア

 

広くて明るい。舞台は真っ青。小音量で流れる客入りBGMはShazamしたところTrope《Callous》、Lastera《Empyrean Light》、Sound Struggle《Rise》などが見つかった。どの曲にもモダンな刻みが入っていた。T字の柵に沿う形で人が集まり、前列中央付近は既に二列目まで埋まっている。改めて見ると結構若い人が多いかもしれない。さてどこに立とう。今回は後ろから全体を俯瞰して楽しみたいと決めていたはずなのに、結局はいつも通り前列中央付近に落ち着いた。モッシュに巻き込まれるかもしれないけど、周りの様子を見て臨機応変に判断しようと思う。おっと、床がSpotify O-EASTくらいベタついているな。

 

中央やや左側四列目

 

16:50、Realising Media・今西勇人が登場。錚々たる3バンドの来日を実現させた張本人を暖かい歓声と拍手、メロイックサインで迎えた。非常灯や視界を遮るスマホ撮影についての短いアナウンスをして捌けていった。喋り方が柔らかくふにゃっとしていた。こんなに穏やかな雰囲気の人がどう暴れるのか、Cyclamenも楽しみだな~。

 

開演直前になってもまだ客入りは少なく、平日の夕方という時間帯を如実に表していた。おおよそキャパの半分もいないくらい?スタンディングはかなり空いていて、五列もなかった。きっと仕事終わりの方が少ししたら合流してくるんだろう。

 

Cyclamen(17:00-17:36)

 

出囃子:植松伸夫《予兆》
1. Never Ending Dream
2. Thirst
3. Mewdek
4. Snow Flower
5. 臥薪嘗胆
6. 神武不殺
7. Red
8. ?
9. 百折不撓
10. Memories

 

舞台上の大きな機材は右手のドラムセットと中央のラック型ミキサーだけ。デジタルなんだなあ。予定通りの時間に暗転。オルガンがゆっくり四度堆積で積み重なり、デ~デ~~ン!(《ツァラトゥストラはかく語りき》を彷彿とさせる。)ストロボ超点滅!暗闇の中から浮かび上がるバンドロゴ!うおー!ビット数の低いピアノ音源のアルペジオと共にCyclamenの面々が登場。Foo~!カッコいい。照明綺麗だな~。後でパブサしたらこちらのツイートFF6のOP曲《予兆》だということを知った。FFの音楽を手掛ける植松伸夫プログレロックの人で、「ジェント」の産みの親であるPeripheryは《Thanks Nobuo》という曲を作るくらい彼から多大な影響を受けている。プログレを掲げたアツいオープニングだ。

 

 

下手側から高尾(gt)とビトク(ba)が二本のマイクの前に立ち、奥にヒトシ(dr)、上手の少し離れた場所にカツノリ(gt)。センターには両手を広げて深く一礼する今西勇人(vo)。ピアノの音が止むや否や《Never Ending Dream》のカオティックなイントロが始まった。想像より耳に優しい音量。この間のライヴが爆音も爆音だっただけに拍子抜け。これくらいなら余裕をもって楽しめそうだ。しかし各パートの分離が悪く、中低音辺りでダマになっている。細やかなギターの動きがほとんど聴き取れず、グロウルは埋もれ気味で、キックの重低音は内臓に来るほど大きくない。音色の問題で、楽曲が本来持ち合わせている複雑なフレージングの快楽が削がれてしまっているように思えた。とはいえ元々の演奏自体は高クオリティだし、十分楽しく聴けるものではある。サビはフレーズが落ち着きパート間の干渉が少なくなるので、幾分か聴き取りやすい。息の揃ったヘドバンと開放感のある照明、VJ…それでも未だに今西のグロウルが籠り気味なのは惜しい。ヒトシは躍動感のあるドラミングだけでなく笑顔も眩しい。

 

「We are Cyclamen~~!」からの《Thirst》、会場が暗い赤に染まる。こちらもカオティックな冒頭部分がぼやけていたが、Djentyなリフで輪郭が戻った。

 

 

VJは『leave them all behind』でENDONを担当されていたyukako(Hello1103)が手掛けているということをここで思い出した。汚れのテクスチャ+グリッチも引き続きあり、今回はより具体的な表現で楽曲に合うドラマチックな世界観を演出していた。

 


屈んで絶叫したかと思いきや、楽しそうにゆらゆら踊り出す今西。まだ二曲目なのに様々な感情表現を見せる。続く《Mewdek》と《Snow Flower》はタツノリのタッピングギターが輝いていた(ちゃんと聴こえたし)。高尾はバッキングでタツノリがタッピングリード、という役割分担が明確にあるっぽい。《神武不殺》はサビのデデンデデンといった刻みがカッコいい。天から差し込む光ファルセットの天国ゾーン⇒クリーンタッピングも良かった。《Red》はイントロの高速フィルインでドラムがピカピカ!痺れた。《Snow Flower》と同じ5+5+5+6のサビのあと5×4拍子に移り、高尾とタツノリが中央で向かい合いながら楽しそうに正確無比なツインリードを奏でる間奏パートも。そんな中でもビトクは比較的大人しくバンドサウンドを支えていた。

 

 

ラストは「今日のこのイベントが皆さんの記憶に一生残りますように」と胸熱セリフで結び、《Memories》へ。木の葉がそよぐ映像と陽の光のような照明、そして爽やかなメロディの合わせ技でチョー気持ち良かった。後半加わった高尾のグロウルが今西より大きくかつ抜けが良かったので左ばかり見てしまった。ポスト・メタルの高揚感を持ってくるのサイコー!

 

良いオープニングアクトだった。音の住み分けが悪く聴こえたのは、手前にスピーカーが置いてあったからかもしれない。

 

Textures(17:54-18:47)

 

1. Laments of an Icarus
2. Storm Warning
3. Reaching Home
4. New Horizons
5. Regenesis
6. Messengers
7. Awake
8. Timeless
9. Singurality

 

ステージ中央にキーボードとドラムを乗せた台座が運ばれてきた。目立つ機材は以上。

 

予定時刻より4分遅れてバンドロゴが映し出され、暗転。少しの間シンフォニックでシネマティックな音楽が流れ、メンバーが登場。下手手前側からJoe(gt)、Remko(ba)、Bart(gt)、奥にUri(key)、Stef(dr)。竿隊三人はキーボ&ドラム側に近寄り、音を鳴らし始めたタイミングで一斉に振り返りこちらへ向かう。「デー・・・デー・・・デー・・・デーーーー」と5連4拍子のフレーズをユニゾンで演奏。Stefの素早いタム回しも加わりワクワクが止まらない。何度か繰り返したのち、ブラッシングで《Laments of an Icarus》の特徴的なリズムを弾き始める。きたー!Daniël(vo)もきたー!デニムジャケットと長髪ヒゲが似合っている。「くるぞくるぞ」と言わんばかりに再び竿隊が奥に引っ込み、戻ったタイミングでドカン!

 

Texturesについては楽しみすぎてこの一枚しか撮れませんでした

 

Cyclamenより音量が大きいが、耳がヒリつかない範疇で耳栓無しでも安心。さらに分離が良く広がりのあるサウンド。甲高いライドシンバルと三連符を織り交ぜたヘヴィな刻みに合わせて、一体感のあるヘドバンをかますTextures一同。ド派手だ。Daniëlはマイク片手に足を開き両膝を軽く曲げ、まるで格ゲーの待機モーションのように脱力した横揺れを見せる。JoeとBart、Uriの長髪は激しく回転。唯一ドラムのStefだけは背筋を伸ばして冷静にビートを刻んでいた。

 

煮えたぎる図太い低音を持ち味とした元voのEricと比べると、Daniëlはより身軽な印象。突発的なフライスクリームでの声質の変化量は彼以上ではないか。何より安定感がとんでもなく、発音も非常に聴き取りやすかった。

 

ボーカルだけでなく全体のバンドサウンドも安定している。テンポチェンジも難なくこなし、二度目のメインリフは音源と異なり最初よりスローに演奏!うおーヘヴィ!そこから緩やかに元のテンポに戻りギターソロ。ブレイクも息ピッタリ。色々な仕掛けが施された一曲目の時点で、音響バランス、演奏技術、ステージングのどれもが高水準だと理解させられた。

 

続いて《Storm Warning》、リフの構造*1を予習してきたつもりだったが、うろ覚えだったので普通にミスったとこで手振っちゃって恥ずかしくなった。Daniëlのクリーンボイスの伸びが良すぎて震えた。てか真正面でかなりの近距離にいるからDaniëlばっか見ちゃう。しょうがないね!後半の変則リフも激重だった。《Reaching Home》では手拍子を煽り、みんなで左右にコクコク揺れる。笑顔でホッピングするRemko。胸に手を当てて穏やかに歌うDaniël。爽やかでダンサブルな曲調、キャッチーな旋律が会場の空気を大きく変えた。《New Horizons》は中低音から中高音域を緩やかに昇る力強いメロディ⇒スネアのビルドアップ⇒メインリフで絶頂。ヘドバンしながらもしっかり高速リードを弾きこなすJoe。改めて安定感ヤバい。

 

《Regenesis》は一番好きな曲で、イントロのフィルインからブチ上がった。途中のキメでDaniëlとRemkoが肩を組むところ、完全なシャッターチャンスだったのに撮り逃したのが痛い。でも初期Meshuggah風コーラス「Time is up!」には参加できたのでヨシ。Daniëlが細かいドラムフィルに合わせて指揮者のように腕を振っていた。後半のクリーンパートではBartが高音ハモリで加わり、終盤のブレイクダウンもかなり盛り上がっていた。《Messengers》はシンセとベースだけでしっとり始まるバラードナンバー。実際に足元を震わせるベーストーンとくどすぎない程度で内臓に響くキック、リズム隊の音響バランスの良さを再確認。雰囲気を引き継いで《Awake》の美メロ。ブルージーでルーズな節回しに癒される。一曲半続いた「静」が曲中盤で「動」にスイッチしDjentyに疾走!気持ちいい。

 

5連4拍子バラード《Timeless》はキーボードが活躍するイントロの《Zman》が省略されていたのは残念だったが、間奏で親指ピアノのように演奏するUriが見られた。サビの高音シャウトを外さないDaniël、流石すぎる。

 

最後は、観客と共演バンドに「ありがとう」と感謝するMCを挟んで《Singurality》。これも5連4拍子。5×4で手拍子を煽るけど、すぐにノリが4×5に変わるの面白い。JoeとBartが頭をくっつけてギターを弾くという萌えシーンがあった。撮り逃しシャッターチャンスその②。クー。アウトロのブレイクダウンは、もちろんヘドバン。ここでさえStefは姿勢よく着実にビートを刻んでいる。超絶安定感はこのドラマーあってこそなんだ。やがて最初と同じ「デー・・・デー・・・」といったフレーズが現れ、演奏を綺麗に締めくくった。

 

安定感抜群の演奏、余裕のある音響、楽曲の迫力を増幅させる素晴らしいステージング。サイコー!!!ミドルテンポ中心のセトリだったので、欲を言えば《Old Days Born Anew》《Swandive》辺りの速い曲も聴きたかったけど…、満足は満足です。

 

Cynic(19:00-20:07)

 

1. Nunc Fluens
2. Evolutionary Sleeper
3. In a Multiverse Where Atoms Sing
4. Veil of Maya (guest vo: 今西勇人)
5. Adam's Murmur
6. 6th Dimensional Archetype
7. Infinite Shapes
8. Integral Birth
9. Humanoid
10. Wheels Within Wheels (弾き語り)
11. The Space for This
12. How Could I  (guest vo: Daniël de Jongh)

 

ステージ上の大型機材はドラムセットのみ。緑色の照明が一面を包み込み、霧がかったような状態に。民族的なパーカッションのループ音源は《Nunc Fluens》。予習通り。

 

 

音源にタム回しで合流するMatt(dr)。照明と上手奥に位置している関係で姿が全く見えない。Brandon(ba)もフレットレスベースを奏でる。こちらはステージ中央、シルエットだけ分かる。まだリズム隊+録音しかいないのに、さっきのTexturesのピークぐらい音がデカい。ヤバそう。耳栓を付けるか付けまいか、悩んだ末付けないことにした。すぐにPaul(vo/gt)とMike(gt)が合流。こちらもシルエット。Paulのオートチューンボーカルがふわーっと広がる。対するドラムは硬質。キックはTextures以上に内臓に来る。パンチの効いたタムが耳に刺さる。フレットレスベースはアコースティックな高音が弱く、指弾きのニュアンスが聴き取れず。アウトロのギターは、シンプルに音量もしくは二本のバランスのせいか、音源通りのメロディラインが聴き取れず。こんな調子でややアンバランスな音響。どうなるか。

 

優しいコードストロークから始まった《Evolutionary Sleeper》。イントロで急激に音量上昇、耳がヒリつく爆音へ。耳栓付けとけばよかった~。グロウルボーカルは不在。マイクはPaulの一本だけなので、他のメンバーがサポートするとかそういうことはなさそうだ。オートチューンボーカルは良く聴こえるのだが、後はというと、ドラムくらいしかハッキリと聴こえてこない。特にリフ=裏メロを弾くギターがぼやけている(ボーカルと被っている?)のがなんとも。楽曲をある程度聴きこんで素晴らしさを噛み砕いているがゆえにCyclamenよりも惜しいと感じた。静かなパートのギターソロはちゃんと聴こえたし、原曲通りの入りで良かった。

 

終止音の余韻が止むのを待たずPaulがせかせかと舞台を移動し、舞台袖のスタッフに何か耳打ちをしたりミキサーをチェックしたりしていたので、機材トラブルでも起きていたのだろうか?しばらく気まずい沈黙が流れたのち、ヌルっと《In a Multiverse Where Atoms Sing》が始まった。照明の霧が晴れ、はっきりとメンバー(ドラムを除く)の様子を伺うことが出来た。ジョニー・デップみたいな色気のあるPaul、和牛水田っぽいMike、穏やかなBrandon。三人ともまだ表情が硬い感じで、身体表現もゆったりノリながら歩き回るくらい。Texturesとは対照的なステージング。Mikeは大きく身体を前後に揺らしたりしていたけど、ヘドバンのそれではなかった。メタルの多様性。

 

 

この曲についてはサビ前の人力ドラムンベースを楽しみにしていたが、32分単位で細かくサイドスティックを刻んでいたアルバム音源の故Sean Reinertの演奏またはMatt本人の演奏動画とは違って、16分単位でゆるめに叩いていた(爆音で細かいニュアンスが埋もれていただけなのかもしれない)のは少し残念ではあった。求めすぎか。

 

四曲目はCyclamenから今西をゲストボーカルに迎えて《Veil of Maya》。イントロの「ファ~ン」で会場爆沸き。今西のグロウルは音源のそれにかなり近く、非常に良かった!Cyclamenの時より発声が安定していて、ロングトーンも決まっていた。

 

 

熱気はそのままに《Adam's Murmur》《6th Dimensional Archetype》と続き、3rdから唯一《Infinite Shapes》も。サビ二回し目からメロディのリズムに同期して地面からピカーと照明が延びる。照明はプログラミングじゃなくて手動か。

そして個人的に一番好きな曲《Integral Birth》!うおー!歌い始めでゆったりと控えめに手拍子を煽るPaul。やっぱりそういうノリの曲なんだ。Mattのキックがタイトにハマって気持ちいい。しかしここでもグロウルパート不在が惜しまれる。

シングルから《Humanoid》。PaulとMikeが楽しそうに向き合ってコール&レスポンスのフレーズを披露!余白の多いアレンジだからかハッキリ聴き取れた。ちょっとモタる感じは音源そのまんま。

 

ここでPaul以外のメンバーが舞台を去る。「Seanへ捧げる」という一言から、弾き語りアレンジの《Wheels Within Wheels》。『Re-Traced』の通りアコギじゃなくてエレキのままだったとは思う。放射状のスポットライトに包まれながら、優しくのびのびと歌うPaul。熱狂から一転して静まり返り、誰もがじっと聴き入っていた。ただ、折角なら空間系含めたエフェクトを完全に切ってほしかったかも。

 

 

《The Space for This》はワイヤレスシステムに不具合があったのかイントロからベースがバリバリ鳴っていたが、なんとか治まり無事完奏。最後はTexturesのDaniëlをグロウルパートに迎えて《How Could I》。これまたアツい共演。もっともTexturesのバンド名はCynicの楽曲に由来したものなので、彼らにとっても相当感慨深いものだったんじゃないだろうか。自らの色を押し出してキレキレのフライスクリームを炸裂させたDaniëlは出番を終えるや否や拍手を受けササッと退場。一瞬だった。キメの間にパワフルな高速フィルインかますMatt、アウトロではMikeがソロを取り、Paulは舞台上手から下手へこちらの様子を伺いながらテクテク散歩弾き。リタルダンドでイントロと同じフレーズからの掻き鳴らし。あっという間に終わってしまった。

 

 

素晴らしかった。名曲の生演奏を聴けただけでも眼福(耳福)。爆音と音響バランスによって微細なニュアンスが聴き取りづらかったのはやはり惜しかった。特にBrandonのベースには耳が及ばず。今度機会があれば耳栓を着用して鑑賞したいところ。

 

Pain of Salvation(20:35-21:55)

 

1. Accelerator
2. Reasons
3. Meaningless
4. Wait
5. Used
6. Beyond the Pale
7. On a Tuesday
8. Icon
9. Falling
10. The Perfect Element

 

キーボードとドラムが別々の台座で運ばれてきた。ようやくPain of Salvationがやってくる。アンプは相変わらず見当たらない。スタッフは長~い棒で照明の角度を微調整している。明らかに客の数が増えていることが肌感覚でも分かる。前方に押し込まれ、運良く二列目になった。下手側にはあまりの期待に半狂乱気味になっている若い海外の女性がいて、大声で謎の歌を歌って「f**k me」と叫ぶなどしていた。これがPoSの人気か。

 

セッティングの最中、上半身裸のJohan(gt.)が現れた。足元を整えたかと思いきや、こちらに手を振りながら忙しない足取りで舞台上をドタバタ。意外とチャーミングな方なんだ。

 

 

ついに暗転。バックスクリーンにパンサー*2と「PAIN OF SALVATION」の文字が映し出され、《Accelerator》のイントロが流れる。「It's been a long time」。二度「Are You OK?」と訊ね、聴衆のテンションをブチ上げてから丁寧な流れで演奏が始まった。

 

 

デンデンデデンデン…。明転と共に、Texturesと同等もしくはそれ以上の完璧な音響でパーカッシヴなリフが繰り出され、瞬く間に世界が一変。鳥肌!メンバーの姿も見える。みんなワイルドでなんか野生感が強い。音響はどうだろう。ギター。JohanとDaniel(gt/vo)とで2本あるがアレンジの関係で引っ込んでいる。Perのベースはよく出ている。Vikramのキーボードも音源並みのベストな距離感。Léoのドラムは、ステージに近かったから金物が少し大きめに聴こえたが、離れたら丁度良く聴こえたんじゃないかと思う。他の三組と違いキックにトリガーを付けていないので、モダンメタルのそれとは一線を画す柔らかくもヘヴィな音作りになっている。

 

演奏技術も既にヤバい。全員が余裕綽々で3連符ベースの7拍子(しかも区切り目でシンコペっている)をビタビタに乗りこなしている。Aメロ、Danielは大股*3でうろつくJohanにリフを任せて歌い始める。溜めを効かせつつ一言一言をハッキリと噛みしめるのを聴いて、徐々にカリスマ的オーラに引き込まれていく。Bメロではリフが止み、切なく嘆くような歌唱がこだまする。サビはタイト(硬質なリフ)/ルーズ(伸びやかなボーカル)を一人で両立。恐ろしいフロントマン。

 

熱を保ったまま《Reasons》。ジャンピングDaniel!着地と同時にヘヴィなリフが放たれる。Gentle Giant風コーラスを皆で合唱、独特のモタリはそのまま再現されていた。キメは予習不足でノリ切れず。そっからまた飛び跳ねて(どちらのジャンプも写真に収めることが出来ず泣)ドカン。ラスサビのDanielとコーラス(Johan、Per)が分離するところとても良かった。

 

《Wait》は6/4拍子を13+11に分割して変拍子に仕立てた難易度の高そうな楽曲だが、相変わらずビタビタ。Danielはイントロで軽くブルージーなフレーズを弾いて見せるほどには余裕。変拍子が解消されたラスサビの暖かい高揚感→変拍子に戻ってカチカチドラムソロ、バッチリ決まっていた。変拍子でフロアがギクシャクするのも醍醐味。

 

 

続いて00s時代の名曲二連。《Used》ではサビ前の〈Getting used to pain〉を合唱。予習しててよかった。爽やかなサビ、原曲同様に分厚いコーラスが効いている。原曲同様の乾いた弦の音から始まった《Beyond the Pale》。オリジナルとは異なりラストは掻き鳴らし大暴れ、アウトロの囁き声は演奏終了後のインタールードとして作用していた。余韻を味わっていると、Danielがギターを持ち変えて《On a Tuesday》のイントロリフを弾き出す。バンドも合流するもすぐ中断しMCへ。「7弦になった、どういう意味か分かるか?」「もう一弦増えたってことだよ」。最近の曲をやるよ~ということをユーモラスに透かし(本来はリフを弾く前にこれを言う予定だったんだろうか)、再度弾き直し二度目の正直。

 

 

デレデデデデデ。Perが拳を上げて空を叩く。4拍間隔で「オイ!」の合唱。リフは7x5(というより4x7+7)の変拍子なので4で割り切れないが、まあ、なんとかなっていた。

手持ち無沙汰になったVikramも舞台の左右を駆け回ってこちらを煽ってくる。

そして…

 

 

ドカーン!!!

 

大爆発!モタつく変則拍子に乗って皆飛び跳ねる。ぐちゃぐちゃの縦ノリ。リフが終わると一瞬ですべての音が止む。静寂の中、ボソッと〈I was born in this building〉。語りが始まって楽器も入り、時が動き出す。Foo~!いちいちカッコいい。この曲で驚いたのは何より後半。突然天使のような透明感のあるハイトーンボーカルが頭上を飛んでいく。女性ボーカル?録音かな?声の主を探して舞台を見回すと、直前までドラムを叩いていたLéoがスタンドマイクを握っている。私はここでようやく、Pain of Salvationが「全員歌えるバンド」であることを知った。恐ろしいそのタンクトップ姿からは想像のつかない美声が、一瞬で会場を支配した。客である私たちだけでなく、舞台上のメンバーもじっと動きを止め、俯き、聴き入っていたように見えた。歌い終わると拍手と歓声が巻き上がり、そこからイントロリフのリフレイン(ややこしい表現)でさらにブチ上げ。ヒャー。恐ろしいバンド。ステージング上手すぎる。

 

 

またも長尺曲《Icon》を経て、青に染まる舞台の中心に細いライトが真っ直ぐ落ちる。そのライトを挟む形で上手に屈みこむDaniel、下手にスラっと立つVikram。画になるな~。《Falling》ここはどうやら即興タイム。柔らかいパッドの上でDanielがギターテクを披露。ブルージーな泣きの中に、原曲には無いフュージョン的な高速シュレッドをさらっと挟み込む上品なプレイ。しばし恍惚に包まれる。

 

 

アルバム通りのトランジションを経て、セトリを〆るのは長尺曲《The Perfect Element》。アルペジオで爆沸き。予習段階では長え~と思ってた曲だけど、豊かな感情表現を目の前で受けたことでその印象はだいぶ薄れた。Daniel含む竿隊が舞台を去っていくなか、ドラムセットの方に移動するVikram。Léoと一緒にドコドコバシャンバシャン。最後は両者ともに片手を上げ、ピタッと静止。大歓声。楽しいフィナーレ!

 

 

アート性を兼ね備えたエンターテインメントとしての音楽、バンドミュージック、ロックミュージックの形を再確認。圧倒的、素晴らしいステージだった。

 

終演・まとめ

 

22時。記念写真をバンドごとに撮ったあと、この企画の発起人であるRealising Media今西氏とその奥様へ感謝の言葉とメロイックサインを送った。終演。あ~面白かった。なんだかんだで全組プログレッシヴ。第一波のクラシカルな「プログレ」…すなわちロック的プログレの美学を受け継いでいたのはダントツでPain of Salvationだが、メタルコア~ジェント的プログレはTexturesとCyclamen、Cynicはそのどちらにも属さないデスメタル由来の独自路線といったところ。この印象は予習したときと変わらず。

 

ライヴで分かったのは、まず音響の解釈(大音量+残響の多いオートチューンで失敗気味だったCynicを除く)。メタルコア組は想像通りのサウンドだったが、PoSはトリガーを使わずに(=ロックサウンドのまま)モダンメタルのアプローチをとっていて、結果タイトかつ丸みを帯びた独自の音像を成立させていたのが面白かった。

 

次に演奏。ジェントの影響が色濃いことからも、タイトさ・切れ味はTexturesがズバ抜けていたように思う。ドラムStefは特に。PoSは各々の技術についてはもちろん(楽曲構成は複数パートを前提にしたものも多い)、フロントマンDanielのカリスマ性がやはり強大で、それはプログレで重要な情緒の大部分をほぼ一人で担えるほどのものだった。マジで聴けてよかった。

 

Meshuggahうんぬんについては、直接的な収穫はない。

 

…まとめようとしたけど、ライヴで分かったことはこれまでのレポートの流れに色々書いてあるような気もするし、もともとプログレに詳しいわけでもないし、これ以上言葉に固めなくていいや。脳に置いておく。とりあえず超楽しかった。

 

 

会場の雰囲気も良かった。どのバンドのときも正面に全力で楽しむファンの方がいてくれたおかげで、自分もノリノリになれた。ライヴ初心者ゆえ、どのジャンルでどれくらいまでギアを上げていいのか分からなかったので。

 

人生初プログレがRIYで良かったです!

 

*1:24-24-2442-24-33-44ときて次に①222②23③24…

*2:最新アルバム『Panther』のコンセプト。

*3:個人的にはエレカシの石森を思い出す