なるたけ遠くに逃避計画

THE ULTIMATE ESCAPE PLAN

ミステリー小説を読んだ四

 

ここ半年ほど、漫画を除いてノンフィクションかつ人文・思想系の本しか読んでいなかったので、ひさびさに活字でフィクションを感じたくなった。そういえば直近で読んだ小説は『変な家』…話としてはだいぶ面白くなかったなあ。じゃあ、本当に面白くなかったのかを確かめるためにも、同じ系統の面白そうなものでも読んでみよう。ということで、ジャンルはミステリー小説に。図書館に行って、間違いなさすぎる王道も王道の作品を、文学に疎い私でも知っているタイトルを探すことにした。見慣れない海外文学の棚から、アガサ・クリスティーそして誰もいなくなったを引き抜く。それなりにページはあるのでこれだけでもよかったが、ついでに、以前から気になっていた安部公房の作品を何か選んでおきたい。高校の授業で読んだ『赤い繭』『盲腸』に不気味な底知れなさを感じて以来、ずっと気になっていた小説家だった。ここでも、王道っぽいものを選ぼう。そのタイトルから、またミステリーらしいというのは知っていたので箱男にした。

 

今思えばあとに回したほうがよかったのかもしれないが、欲望のままに、私は『箱男』を先に読んでしまった。衝撃!なんだこれは。単なる箱に住む変態の話ではない。初めは「世にも奇妙」みたいなテイストでゆるく読み進められたが、贋魚とかノートどうこう言い始めたあたりで現実と妄想が混ざり始めて、そこに互いに尻尾を噛む「見る/見られる」構造も重なって、ぐしゃぐしゃ。最後には作者の影も見え隠れし、小説自体が段ボールの落書きだといったようなことまで…。落書きは増殖し続ける。主観に閉じこもってしまった人間たちの迷宮のような話を、どうにか文章から投射できるようになっているのが凄すぎる(もっと私の頭が良ければ、もっと理屈が見えるんだろうな)。本筋だけミステリーの体をとっているが、これは超実験的SFだった。純文学ともいうのかな?正直半分以上意味が分からないので、一年くらい空けてまた読みたい。

 

次に、ド変化球の後に読むド王道。『そして誰もいなくなった』、普通に良かった。最初の殺人後の推理パートくらいから怪しすぎるけど流石に無いか、とほんのり思っていた人物が真犯人だったので、推理は半分あたって半分はずれた。今日のミステリーの常套句が沢山あって古臭い印象は受けるものの、それ以上に描写が丁寧で終始読みやすかった。まずキャラクターの人物像がハッキリ見える。私の脳内ではなぜか『ツイン・ピークス』の登場人物にメイクが施された形で配役された(アンソニー・マーストンにはボブ、医者にはジャコビーといった感じで、ウォーグレイヴ判事だけ『ミッドサマー』の老人ビョルンが当てはまった)。後半に行くにつれてSAN値が減っていく様子も良い。解答編もあってすっきり読み終えられる。ついでに叙述トリックも見直した。ただ「カインの刻印」だけはよくわからなかった。後付けでも説明がつくので。あと、東方の曲に合った「U.N.オーエン」の元ネタってこれだったんだ。

 

てな感じで、楽しく読みました。