なるたけ遠くに逃避計画

THE ULTIMATE ESCAPE PLAN

MONO NO AWAREの《88》が良い曲すぎる件について

 

東京発インディー・ロックバンド、MONO NO AWAREの5thフル『ザ・ビュッフェ』が本日リリース。ボーカルワークと歌詞が素晴らしい《同釜》から始まり、ホリエモンソング《野菜もどうぞ》、スラッカー/ノイズからサイケへと表情を変えるギターが映える《味見》、超絶キャッチーなポップセンスが炸裂したシングルカット曲《風の向きが変わって》などタイトル通り食をテーマにした前半が主に印象に残った。M7《お察し身》以降は比較的落ち着いた曲が続く。シティ・ポップ風味の《忘れる》、思わず口ずさみたくなるバラード《アングル》まで。楽しくて面白かった。

 

 

songwhip.com

 

なかでも特に感動したのがM9《88》だ。まずイントロの可愛らしいピアノのフレーズは、クラシックピアノ周辺でいつからか伝承されてきた初心者向けの小曲(タイトル不明)の一部を引用したものだ。通常ピアノというものは手を開いてパーの形にして弾くものだが、この曲はグーの状態で、しかも黒鍵だけを弾けば完成するというまさに初心者向けの代物である。私もピアノを習い始めたころ、同じく黒鍵だけで弾けることで有名な皆さんご存知「ねこふんじゃった」や両手の人差し指だけで弾ける「チョップスティックス」と並んでまさにこの曲を練習した覚えがある。

 

ネットを眺めると海外では(日本でも?)The Knuckle Songという曲が親しまれているようだったが、似ているだけで別物だった。この曲で引用されているメロディは探しても意外と見つからなかった。ではとりあえず私が証人ということで…

 

 
名前も付いていない記憶の底のメロディにギターがナイロン弦の暖かい音色でお洒落なコードを付けてるもんだから、OMOIDE POWERはさらに増幅。ピアノ経験者ならこのイントロだけでノスタルジー腺が猛烈に刺激されること間違いなしだろう。こうして曲名の「88」がピアノの鍵盤数を指したものだと明確になり、この曲の主役はピアノだと判明する。ただ、主役とはいえピアノはたった一つのメロディしか奏でない。音色も含めたモチーフとして主要箇所で反復されるだけの簡潔で明快な役割を任されている。ソングライティングの妙!
 
はじめのバース。穏やかなメロディはF#ペンタトニック。つまりあの曲と同じく黒鍵の上で握り拳を転がすだけで弾けるのだ。おかげでサウンドに統一感が生まれている。加えて、布団とピアノを掛けたノスタルジックな歌詞も良い。〈舞い上がる埃が光って光って光って見える〉。「見える」の「え」で初めて白鍵である4度の音が現れ、そのままサビに突入。
 
スネア連打のフィルイン~優しくバンドサウンドに包まれる。ペンタトニックの制限から解き放たれて世界が広がった心地。そして〈飛びたいあの空の奥を見たい/それ踏み込めペダル〉と歌われる。もちろんこのペダルはピアノのペダルを指している訳だが、多くの場合自転車を連想させるフレーズをピアノに関連させているのがとても面白い。自転車が歌詞とMVに出てくる《風の向きが変わって》ではペダルって単語を使ってないのに!
 
次に〈名も知らないお玉杓子見つけては/どしどし追いかけ回す〉と日々色々な曲の練習に励む様子を描いている。「どんどん」とかじゃなくて「どしどし」ってのが良い。

 

2番。主人公は迷いながらもそれでも直向きにピアノへ向き合い続ける。今度は〈背中を押した1の指〉〈道を示した2の指〉と五本指とそれぞれのハンドサインにも絡めた反復。ただ順番に行くと5の指に行きつくはずだが、出てこない。代わりに三連符で〈約束をしよう〉とだけ。〈やりたいことは何でもやってやろう〉という約束。約束のハンドサインは?指切り。指切りって何の指?小指。5の指。うわー!!!!

 

で、最初のバースの再現。布団が1つ→3つになっているのは主人公が家庭を持ったことを示唆しているのだろうか。続くラスサビでは〈耳貸しなでかい拍手聞こえたかい/どしどし追いかけ回そう〉。発表会かはたまたコンサートか。ちなみにタイトル「88」の読み方は「パチパチ」らしい。*1

 

最後は賑やかで祝祭感に溢れるアウトロ。バッハのメヌエットを彷彿とさせる流麗で粒立ちの良いギターフレーズが心を打つ。そしてピアノがあのメロディを奏でながら、明るい終止で締めくくられる。

 

ここまで書いて、この曲はヘーベルハウスへの提供曲だということを知った。家族の実話に基づいたムービーへの書き下ろしらしい。なるほど!!!じゃあこれを観ればすべてが分かるということか!!!

 

 

🌈泣きそう🌈

 

涙腺に来た。久々にあと一歩踏み出せば泣ける状態まで行った。自分はこの歌の主人公とは違って高校受験期にピアノ教室通いを辞めてしまった身だけれど、今後どんな形でも音楽と関わり続ける人生にしたいと強く思った。最近ピアノ弾けてないし新しい曲でも習得しようかな。

 

それにしても過去の自分と重なる作品ってホントに心臓に来る!

 

うえーんつ瑛士

 

みょ~~ん 入浴!

 

のぼせるまで