なるたけ遠くに逃避計画

THE ULTIMATE ESCAPE PLAN

月間音楽録:2024年12月

 

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 

「週一回以上更新する」とかほざいてたけど、結構休んじゃった。ゴメンナサイ。今日からスタート。切り替えていきま。年間ベストも出来てれば出したかったけど、まずは順当に12月を振り返ることにする。

用事が立て込んで忙しかったが、リスニングは継続できた。新しく聴いたアルバムは89枚(旧譜56:新譜33)。年間ベストのために聴き逃した新譜や掴み切れていない新譜を多めに聴いた気がする。再生時間は7,607分(Stats.fm調べ)。普段通り。

 

 

ワッツイズ軸

 

12月の軸は、太い順に

 

 

でした。

 

再生時間ランキング

 

らくちんなStats.fm調べ。

 

12月の再生時間トップ10アーティスト(Stats.fm)

 

新譜を繰り返し聴いたため、顔触れが一新。なんと先月との被りはゼロ。

 

1位はDefeated Sanity。ブルータル~テクニカル・デスの重鎮バンドらしく、11月にリリースされた新譜の『Chronicles of Lunacy』を聴いてみたら、ヤバかった。そもそも私自身ブルータル~テクニカルの知識を全然持ち合わせていなかったのだが、それでも何が「ブルータル」で「テクニカル」なのかは一聴した時点でよく分かった。ブルータルなのは悪魔的にヘヴィな音色とスラムパート(深い刻みのブレイクダウン)。これのおかげでなんとか頭が振れる。テクニカルは複雑な変拍子。構造が理解できるまで繰り返し聴いた結果がこの再生回数と再生時間である。ちなみに、本作から加わった新ギタリスト・Vaughn Stoffeyのインタビュー動画も観ておいた(途中の機材のとこは飛ばした)。彼は音楽学校出身でクラシックやジャズ・フュージョンの素養があり、Ben Monderの紹介でDefeated Sanityのことを知るまではデスメタルに対して無知だったという。へー。そんな彼がフェイバリットとして挙げるデスメタルバンドのSuffocationやMorbid Angelを聴いてみたりもした。

 

2位のImmolationデスメタルだが、こちらはディソナント・デスメタル。Suffocationと共にNYデスメタルの立役者、それにUlcerateの新譜でディソデスの定義がよくわからなくなったので1stから4thまで聴いてみた。4thはディソナント成分が少なくてUlcerateに近い感じがあった。ただ楽曲構成はシンプルなので、伝統的なディソデスといった面では2ndの方が良いかもしれない。他のNYデス(IncantationやMorticianなど)もチェックしておこう。

 

続く3位のSUMACデスメタル…ではないが、メタルではある。個人的2024ベストということで、ちょっと長めの文章を書いている。

 

4位は毛色が変わりビバップの祖・Charlie Parker。聴こう聴こうと思い続けて聴いたことがなかったので。ネットで調べた結果、多くの人がサヴォイとダイアルで録られたセッションがまとめられているコンピ『The Complete Savoy & Dial Master Takes』を薦めていたので、当時としては珍しいLPの『Charlie Parker With Strings』と合わせて全部聴いた。一音一音が明瞭でフレージングも流麗、上手いというのも失礼なほど上手いのは分かるが、具体的に何が凄いの?と言われると返答に困る。メロディやハーモニーの面は、表面的には普通に聴こえた。きっと分解すれば膨大な情報が詰め込まれているのだろうが、私の耳では到底追いつけない。トランスクライブを挟まないと難しそうだ。西洋音楽の三大要素から考えると、リズムはどうか。上の二枚のアルバムを聴いているときは専らメロディとハーモニーのことばかり捉えようとしていて、リズムはMax Roachのドラミングぐらいでしか注目することはなかった。Charlie Parkerのリズム面はどう評価されているのか、軽く調べてみるとこんな文章やM-BASEという即興コンセプトで有名なSteve Colemanによるこんな文章を発見。どうやらCharlie Parkerは緻密なピッチ操作に合わせて複雑なアクセントを絡め、さらに小節線も超えてしまい、ミクロ/マクロの両方でとんでもないことをやっているらしい。しかも即興で。私のようなトーシロには、メロディとハーモニーに翻弄されるばかりでその奥の仕組みに辿り着けないので、このようなテキストの存在が本当にありがたい。今度はリズムに注意を払ってライヴ盤を聴くことにしよう。

 

5位はRafael Toral。カワイイ電子鳥のアンビエント/ドローン『Spectral Evolution』を4回聴いた。年ベス4位くらい。

suzumebango.hatenablog.com

 

6位はKendrick Lamar。中学校ぐらいのころにYoung Kzの替え歌で《Be Humble》を知って以来一切聴いてこなかった。アルバム通して聴いたのは最新作『GNX』が初めて。そんなにピンとこなかったので、過去作『good kid, m.A.A.d city』を聴いてみた。コンセプトアルバムでもあるらしいので、細かく楽曲を解説してくださっているZoeさんの記事で理解を深めながら。かなり良かった。『黒人音楽史』でギャングスタとコンシャスを橋渡しするラッパーだという説明がされていたけど、こういうことだったのか。個人的に好きな曲は《Sing About Me, I'm Dying of Thirst》。コンプトンで犠牲になった二人を憑依させる前半から、心の内をありのまま吐き出して洗礼を受けるに至る後半(何気に11拍子のビート)まで、圧倒的なスキルで紡がれる素晴らしいストーリーテリング。本場パナい!『To Pimp a Butterfly』も「ヒップホップ最高峰の名盤」という情報でとっかかりづらいとはいえ、いつか聴いてみたい。

 

7位もヒップホップ。ハイチ系アメリカ人のコンシャスラッパー・Mach-Hommy。最新作『#RICHAXXHATIAN』("Richaxx"="Richass"なので「リッチアスハイシャン」と読むらしい)を何回か聴いた。浮遊感のあるジャジーなドラムレスビートの上で、終始落ち着きながらもグルーヴィーに言葉を紡いでいく。ヒップホップは出来るだけリリックを眺めながら聴くようにしているので、いつも通りGeniusを見てみると、なんとMach-Hommyだけリリックが無い!そして「これらの歌詞は、DMCAによる削除要請のため、意図的にロックされ、部分的に掲載されています」との文章が。というのも、彼がリリックをネット上で公開していないのは、テキストの段階で既に完結している文芸作品を無料でばらまくようなことはしたくないから…らしい*1。いち作家の考えとして尊重したいが、非英語話者としては惜しいところ。部分的に聴き取れたところだと《ANTONOMASIA》の「ダース・ベイダー天文学者とスカイウォーカー*2を吸ってる」とか《POLITickle》の「白リン弾がガザの市民に降り注ぐ*3」「IMFっていうデカい重荷を背負ってる」とか言ってた。skit《XEROX CLAT》でも直接的に半資本主義を主張している通り、全体的に政治色の強い作品ぽい。でも結局は音で楽しむことになる。曲によってエッジボイス寄りの発声が若干耳に刺さる感じがあるにせよ、聴き心地は全体的に良いので。

 

8位はテクニカル・デスメタルの雄・Death。11月ライヴで観たCynicの関連で、4th『Human』から6th『Symbolic』まで。思ってたより綺麗にまとまっていて、演奏の上手さはあってもそこまで惹かれなかった。3rd以前も聴いておきたい。

 

9位はAdult Jazz。新譜『So Sorry So Slow』の聴き直し。中評価。

 

10位はノイズ・グラインドのSissy Spacek。7月にリリースされた『Diaphanous』を年間ベスト選出のために聴き返そうとしたら、今年はそれ以外にも5月に『Hunter Killer』、8月に『Bolero Shield』と合計三枚のフルアルバムをリリースしていたことが判明。ノイズ、アンビエント、ドローン辺りはその制作フローからして多作の人が多いんだった。てことで、折角だから全部聴いた。『Bolero Shield』が一番良い。ミュジーク・コンクレートからパーカッションのインプロ、ハーシュノイズ寄りのグラインドまでバラエティ豊か。ただ2時間近い長尺なのが惜しい。忙しい人は後半の《Non-Gravitational Acceleration in the Trajectory》から聴いてみてほしい。

 

グッド新譜

 

  • Opeth『The Last Will and Testament』3.5-
  • FenneszMosaic』3.5
  • Rafael Toral『Spectral Evolution』4.0
  • Aara『Eiger』3.5
  • Defeated Sanity『Chronicles of Lunacy』4.0
  • Jack White『No Name』3.5-
  • Ka『The Thief Next to Jesus』3.5
  • Sissy Spacek『Bolero Shield』3.5-

 

グッド旧譜

 

メタル

  • Celtic Frost『Morbid Tales』『To Mega Therion
  • Morbid Angel『Altars of Madness』『Blessed Are the Sick』
  • Death『Individual Thought Patterns』『Symbolic』
  • Suffocation『Effigy of the Forgotten』『Pierced From Within』
  • Immolation『Here in After』『Close to a World Below』
  • Cryptopsy『None So Vile』
  • Acid Bath『When the Kite String Pops』
  • Sadness『I Want to Be There』

 

ジャズ

  • Kenny Burrell『Midnight Blue』
  • Eric Dolphy『Outward Bound』『Out to Lunch』
  • John O'Gallagher『The Anton Webern Project』

 

それ以外

  • Autechre『Draft 7.30』
  • The Body『I Shall Die Here』
  • Merzbow『Magnesia nova』
  • Dead Can DanceDead Can Dance』『Spleen and Ideal』
  • Tortoise『Millions Now Living Will Never Die』『TNT
  • Ka『Honor Killed the Samurai』
  • Kendrick Lamar『good kid, m.A.A.d city』
  • SOPHIE『OIL OF EVERY PEARL'S UN-INSIDES』
  • Ecco2k『E』

 

今月のわからん

 

 

Charlie Parkerは先ほど書いたように解決の糸口が見つかりつつあるので飛ばす。

 

まず、Glenn Gouldの有名な『ゴルトベルク変奏曲』の速弾き録音。音楽の構造を浮き上がらせる透徹さをもって過去のバッハ像を塗り替え、ある意味原点に忠実な演奏をしてみせたという点で歴史的に超重要な作品であるのは理解できる。理屈は噛み砕いていても、身体のほうが感動してくれないので元も子もない。たぶん、伝統的な遅いテンポの段階で楽曲の良さを理解していないと、このスピードの面白さは理解できないんだろう。経験を積んでからまたチャレンジしよう。

 

次はBUCK-TICKの新譜『スブロサ』。BUCK-TICKの名前は以前から何度も目にしてきたが、実際に聴いたのは本作が初めて。ボーカル・櫻井敦司の急逝後にリリースされた再出発の一枚、という文脈を抜きにして、1時間以上聴いて思ったことといったら、《スブロサ》のベースカッコいい、勝手にロックな感じかと思ってたけどテクノ寄りで意外、歌詞はダサいけどクセになる良さがある、《絶望という名の君へ》はRadioheadの《Creep》に近いコード進行を使ってるな、ぐらい。大部分が印象に残らず、反復が多くて飽きてしまった。これは一周時点での感想。色んな人が絶賛していることもあるので、過去作をある程度聴いたうえで再度聴き直したい。あと、反復の感じはテクノとかインダストリアルだけじゃなくてThe Cureを筆頭とするポスト・パンク由来のゴスの流れを汲んだものでもあると思う。個人的にそこらへんは苦手分野なので、今年のうちに克服しておきたい。

 

GiganとPortalはディソナント・デスメタル。どちらもディソナント成分マシマシの飽和し融解したギターサウンド。これまで聴いてきたメタルの中でダントツに聴きづらい。前提としてフレーズの輪郭が聴き取れない。複数回聴いてようやく慣れるタイプの音楽っぽいので、定期的に聴いてピースを埋めてこう。

 

総括

 

年末までしっかり濃かった。大量の収穫があった一方、頭でっかちになっているのも感じた。どうにかしてほぐします。今後の予定について…『Realise It Yourself vol.1』のライブレポは、せっかく一万文字も書いたので尻切れトンボでも春のうちに出す。2024年ベストアルバムは来週ぐらいに出す。2025年は現実世界で色々やってかなきゃならんので、こちらの運用は去年よりもゆるくいきます。なにとぞ。

 

*1:どこかのインタビュー記事で読んだはずだが、ソースが見当たらない。狩猟の話もあったはずなので多分Rolling Stoneのこれかな?

*2:Skywalker OGという大麻の品種?

*3:眉唾な情報ではある